Dr.Kido History Home
E-mail

国際医療協力

ボタン Dr. 木戸流「異文化コミュニケーション」 ボタン

137)妊娠女性研修医への配慮:米国事情

 前回(136回、米国人の個人主義)1980年代の米国での研修中に妊娠、出産した女性研修医への配慮が無さすぎる事情を書きました。これを執筆した直後の2023年3月16日号のNew England Journal of Medicine(NEJM)に、まさにこのことをテーマにしたPregnancy and Residency(妊娠と卒後研修)という記事が掲載されました。

 冒頭に1980年代から90年代にこの記事の筆者が関わった女性研修医の例が紹介されています。この研修医は研修中に妊娠し妊娠中毒症を起こし1ヶ月の安静を余儀なくされました。未熟児出産の後、研修を再開しましたが、長時間の研修が彼女の育児疲労を倍増させました。レジデンシーと呼ばれる研修を終えてもフェローシップを経ないと専門医にはなれないのですが、30代を過ぎると女性の妊娠に関するリスクが増加してきます。米国のトレーニング過程は男性にとっても非常に過酷ですが、ましてや研修中に妊娠した女性では、その過酷さは言わずもがなです。

 現在、米国の研修医の男女比はほぼ同等で、やや女性の方が多くなっているのです。そのこともあり、この30年の間に妊娠した女性研修医に対する対策が徐々にですが進んできています。例えば、妊娠中の研修時間の軽減や最高12週間までの無給休暇などです。女性医師は米国では今や医師の半数を占める労働力なのです。ですから、これらの妊娠女性医師に対する対策は、女性の必要に応じた対応ではなく、医師という職業上必要な対応なのです。言い方を変えると、妊娠女性医師対策は、「女性への思いやり」ではなく、医療の対等な構成員に対する必要な対応なのです。

さて、妊娠といえば世界でもトップクラスの少子化に陥っている日本でも、女性医師数は近年スピードを上げて増加してきています。女性医師の妊娠の適齢期はちょうど医師の研修時期に合致しています。その時期の女性医師に対する適正な対応、というより、男女関係なく医師の構成員としての適正な対応を医療界全体で真剣に考えていく時期にきているようです。

| BACK |

Top


木戸友幸
mail:kidot@momo.so-net.ne.jp