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142)一流誌コラムニストの条件

 2023年夏、米国映画「オッペンハイマー」が日本でもかなり話題を呼びました。しかし、今回の主題は作品そのものの良し悪しではありません。何故なら2023年10月現在、日本では公開されていないので、それは判断不能だからです。実は「オッペンハイマー」とほぼ同時に米国で公開された「バービー」の主演女優の頭に原爆のキノコ雲を連想させる合成写真をネットに流したことに対して、日本からの反論の嵐が引き起きたのです。そのことからの連想で、日本に落とされた原爆の生みの親、マンハッタン計画のトップであったオッペンハイマーを描いた映画も日本公開がペンディング状態になったのです。

 2023年8月19日の日本経済新聞一面のコラム「春秋」に映画「オッペンハイマー」に関する話題が取り上げられました。当回のコラムニストは、この映画を機会があって米国で観たそうです。結果、3時間の超大作を「一気に引き込まれて」鑑賞を終えたそうです。それに続けて、「オッペンハイマーが戦後、スパイの汚名を着せられ、公職追放されていたと知って驚いた」とつないでいます。私は彼の「一気に引き込まれ」という感想には大いに同感しました。私自身、このブログ執筆中の時点で映画を観る機会はなかったのですが、歴史の事実を基に製作された大作なら、この感想は当然だろうと思ったからです。しかし、それに続くコラムニストがオッペンハイマーの戦後の不幸に無知だったことに関しては、いささか疑問を感じます。 何故なら私は、この異文化ブログ(141)「米国の高度成長時代」に書いたように、ハルバースタムのザ・フィフティーズを10年以上前に読み、オッペンハイマーの原爆投下に対する苦悩や、それにつけ込み徹底的に彼を追い込んだマッカーシズムについてもそれなりの知識を持っていたからです。またこの程度の事実は現在60歳代くらい以上の米国人のそこそこの知識人であれば、常識として知っているはずです。

 ということで、日経朝刊のコラムニストの看板を背負う日本屈指の知識人が、オッペンハイマーのような有名人の裏の履歴を知らなかったと正直に述べるのはあまりにナイーブ過ぎると思うのです。実際知らなかったとしても、執筆前に少しネット検索すれば、常識的な事実はすぐ判明します。そこは、「ぼんやりとそういう裏の事情は知っていたが、ここまでとは知らなかった」くらいに書いておくほうがよかったのではないでしょうか。今はAIを使えば日英の翻訳など一瞬で、それも正確にできる時代です。英語国のそれなりの人たちが、日本のクオリティー・ペーパーのコラムニストの程度はこんなものかと思われれば、少し大袈裟ですが、日本の国益を損なうことにもつながるのではないかと危惧してしまいます。

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木戸友幸
mail:kidot@momo.so-net.ne.jp