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147)塩野七海、アレキサンドロス、大谷翔平

塩野七海さんのことは、パリに行く前の1990年前半の国立大阪病院勤務時代から彼女の単発ものの歴史エッセイを時々読んでおり、好感は持っていました。1997年に2年半のパリでの仕事を終え帰国した時に、塩野さんが「ローマ人の物語」を書き始め、好評を博していることを知りました。実は私は日本語の読書は、ほぼ100%通勤時の電車内でしかしないので、持ち運びの便もあり、文庫本しか買わないのです。「よし、文庫化されたら読もう!」と決心しました。

願い叶って「ローマ人の物語」は2002年に文庫化されました。しかし、何しろ古代ローマの誕生から滅亡までを描いた大作です。1巻200ページ余りの文庫は、一度に数巻が4~5ヶ月毎にしか発売されませんでした。ですから、2002年からほぼ10年かかって全43巻が出揃いました。その10年間、次の発売が待ち遠しくてたまらないほど、古代ローマにハマってしまいました。この大作を完成させてから、塩野さんは、速攻で古代ローマの基を築いた古代ギリシャを描いた「ギリシャ人の物語」に取り組みます。こちらの文庫化は2023年後半で、23年中に1巻500ページほどの文庫4巻が終了しました。もちろんこちらも興味津々で読み終えました。

というわけで、この20年間で現代の西洋文明の基礎になった古代ギリシャ・ローマの歴史と文明に関して、70歳を超えて初めてその詳細を知る幸運に恵まれたのです。一部の歴史家は塩野さんのこの2大作は「歴史書」ではないと言って批判しているようです。当たり前です。塩野さん自身、自らの作品を「歴史エッセイ」と命名しているのです。何しろ2000年を超える過去の歴史です。一次資料は限られており、起こった事象の理由は、前後の出来事から筆者が想像するしかないことが多いのです。この想像部分が彼女の作品の真骨頂なのです。

さて、20024年1月に「ギリシャ人の物語」読み終えた時に、ちょっと面白いことを思いつきました。塩野さん自身がローマ・ギリシャの作品中で何度か書いているのですが、男性に関して結構ミーハーな好みがあるのです。決断が正確で早く、実行力があり、性格が良く、部下からも女性からも好かれる、それにイケメンでもある、といった男性が好みなのです。(極めて当たり前のようですが・・・)この基準をもって、古代ギリシャ・ローマの英雄の中から好みを二人選ぶとすると、ギリシャ時代からはアレキサンドロス、ローマ時代からはカエサルと述べています。この二人は甲乙つけ難いようですが、塩野さんの記載のニュアンスからすると、どうもアレキサンドロスの方がより好みのようです。恐らく活躍した時期が、アレキサンドロスが20代の10年間、カエサルが中年期だったこと、前者が若くて長身、イケメン、後者は中年の渋さはあったが容姿は並だったといったところでしょうか。

この彼女一押しのアレクサンドロスです。彼はマケドニア(古代ギリシャ文化圏の一国)の王だったのですが、父王が暗殺され若干20歳で王位を継ぎ、自国の数十倍の規模を誇る大国ペルシャの征服の旅に出ました。連勝に次ぐ連勝を重ね、現在に至るまで世界中で大王と称されている人物です。彼は、この10年に渡るペルシャ戦役で、戦闘に際しては必ず「ダイヤの切先」と呼ばれる騎兵隊の先頭に立って戦い、兵士たちと同じ食事を摂り、同じテントで寝るという王でした。また、各戦闘で得た賠償金は、ほぼ全て兵士たちの報奨金として分け与えたのだそうです。これって、誰かを思い浮かべませんか? 2023年末にLAドジャースと1000億円強の十年契約を交わした二刀流・大谷翔平です。若くて長身イケメンの彼は、現役時代はその1割しか受け取らず、背番号を譲ってくれたドジャース選手の妻にはポルシェを贈り、2024年元日に能登半島を襲った大地震には1億円超の義援金を送りました。まさに、現代のアレキサンドロス大王だと言えるのではないでしょうか。

P.S. 「ギリシャ人の物語」の第4巻の巻末に、塩野さんは「この作品をもって歴史エッセイの執筆を終了します。」と書いておられます。何だか残念で寂しい気持ちになってしまいました。ありがとう、塩野七生さん! ところで、2004年2月からネットフリックスで、アレクサンドロスの生涯を描いた六話続きの連続ドラマが始まっていますが、あれは、お勧めしません。アレキサンドロス描くには、あまりに短すぎ、単なるサマリーに過ぎません。

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木戸友幸
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