Dr.Kido History Home
E-mail

国際医療協力

ボタンDr. 木戸流「異文化コミュニケーション」ボタン


48)外国人診療のリスク

 このブログで、書いてきましたように、アメリカでの医療研修を終えて帰国してからこれまでの間に数百人の外国人患者を診療してきました。このため、これまでに医療系の雑誌に何度も、外国人診療についての文章を依頼されて書いてきました。そこで、いつも問題になるのが、意思疎通の困難な外国人を診療したことが原因で、医療過誤に陥らないかという、一般の日本人医師が多く抱いている疑問に関することでした。

  確かに、アメリカでは、どんなささいな医療上の不具合や、単なる患者側の不満足でも医療訴訟にまで発展します。しかし、これは医療側の問題ではなく、司法側の問題なのです。アメリカではあまりに弁護士が多く、医療訴訟のみで生計を立てている弁護士が山ほどいます。彼ら(彼女ら)を称して、救急車追っかけ弁護士(ambulance chaser)と言います。もともとアメリカの弁護士は相談料といったものは取らず、成功報酬制です。という訳で、患者は駄目もとで弁護士の誘いに乗るということです。
そのアメリカでも、飛行中の医師の医療行為等に対しては、グッドサマリタン法によって、その結果責任が問われないことが多いのです。(州によって違う)
ですから、善意から出た医療行為で、その場ではそれしか出来なかった医療に対しては、かなり寛容です。アメリカ人もambulance chaserがいなければ、結構常識人なのです。アメリカ以外のキリスト教国も、グッドサマリタン精神は持っているので、善意から出た、ベストではないにしても、それなりの医療に対しては、寛容に接してくれます。

 異国での、特に言語体系のまったく違う日本での医療に、航空機の中と同等のグッドサマリタン法が適応になるとは思いませんが、これは、医療側がそれなりの努力と誠意を示せば、かなり似た状況だと思います。もちろん、私自身はこれまで診療した外国人から訴訟を起こされたことはありませんし、それに近い状況に陥ったこともありません。恐らくこのブログの読者諸子の中で、少なくとも英語には、それなりの自信のある医師で、外国人患者を診療する意思があれば、訴訟を起こされる心配はまずないことを保証します。最初のうちは、少しぎこちない診療になるでしょうが、数人目以降は次第に慣れてくるはずです。

  むしろ、外国人診療のリスクは、支払いの時に生じます。一番単純な例は、患者が経済的に困っており、キャッシュも預金も何も持っていない場合です。これは、一時、不法外国人労働者が多い地域の公立病院で社会的問題になったことがあります。ですから、日本の健康保険を所持しない外国人には、診察前に保険の種類を尋ねる、無い場合は、診察料の概算分のキャッシュを所持しているかどうかを尋ねることは必要です。これは世界のどこでも、行われていることで、失礼なことではありません。(払ってもらわなくても大丈夫という太っ腹、かつ超人道的な医師はこういう質問をする必要はありませんが)

 もう一つの例は一般にはあまり知られてないことなので、注意してださい。かなりひどい交通事故等で入院した外国人患者が、本国で保険(プライベート保険のことが多い)に入っているので、支払いは、保険会社と病院側で交渉して支払って欲しいといったケースです。要するに、かなり高額な医療費を一時立て替えて欲しいということ。これは、私自身も他の医療機関から、これまで何度か相談を受けましたが、絶対に受け入れたらいけません。患者にいったん立て替えてもらって、帰国後、患者自身が保険会社と交渉するのが正しいやり方です。日本の医療機関が海外の保険会社と交渉しようと思っても、交渉の糸口もつかめないことが多いのです。Eメールで支払い交渉のことを持ちかけてもまず返事もくれません。その国の言葉に堪能な代理人(普通は弁護士)を立てて、国際電話で生交渉してもらうしかありませんが、何せ、相手はお金の出し入れのプロですから、極東の小国日本の弁護士など手もなく撃退してしまいます。パリで診療していた時は、保険扱いの患者は、私自身と直接契約関係にある保険会社の保険を所持している人にしか、キャッシュレス・サービスはしていませんでした。それ以外の保険の患者には、いったん現金で支払ってもらい、保険に必要な書類にサインをしてあげて、患者が保険会社と交渉するということにしていました。

| BACK |

Top


木戸友幸
mail:kidot@momo.so-net.ne.jp