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53)日本の医師の英語能力

 2004年だったと記憶していますが、大阪でアジアの医学生の国際大会が開催されました。その頃、私は研修医や医学生の診療所研修に携わっており、多くの若い医師や医学生と交流がありました。その一人から、ぜひ私に協力して欲しいと依頼されました。当時、私は2005年のWONCA(世界家庭医会議)でシンポジストを務めることが決定していたので、その練習にもなるかなと思い、引き受けました。

 大会では、30人くらいのアジア各国からの医学生を前に、日本のプライマリ・ケア(一般医療)の現状を英語で講演しました。講演後の質疑応答にも活発に参加してくれて、なかなか盛り上がりのある講演会になりました。しかし、残念ながら日本人医学生からは質問はありませんでした。本当は一つ、勇気のある女子医学生からの質問があったのですが、途中で英語につまってしまい、質問の続きを私が察して補足した後、答えたといういきさつがあったのです。

 この会議の参加者は、アジアの各地にわたっており、フィリピン、シンガポール、マレーシア、インドネシア、韓国、台湾等から来ていました。フィリピン、シンガポール、マレーシアなどは、英語が公用語になっていることもあり、ほとんど不自由はないレベルでした。しかし、インドネシア、韓国、台湾からの諸君も拙いながら、なんとか通じる英語を、臆せず発言するガッツを持っていました。
日本人学生の参加者も、自らの英語能力の現状はしっかり認識できたはずです。こういう体験を積みながら、英語能力を高めていってくれるはずです。

  医師の場合は、やはり英語国に留学したものの英語力が優れていることには異論はありません。しかし、留学といっても目的はさまざまです。日本からの留学は、圧倒的に研究目的でのものが多いのです。研究は、実験をしたり、論文を書いたりする時間が大半で、あまり英語でしゃべる時間はないようです。ですから、数年間の研究留学では、あまり英語は上達しないようです。これに反し、臨床留学、特に研修医としての留学では、毎日、ほぼ100%英語漬けなのです。朝の回診での上級研修医とのやりとり、その後の指導医への入院患者紹介と質疑応答、昼食事の勉強会、午後の自らの患者の回診と週数回の外来診療、これらすべてが、ネイティブ・スピーカーとの英語での会話です。英語が通じなければ、まったく仕事にならないのです。臨床留学者にとって、英語は目的ではなく、手段、それも必要不可欠な手段なのです。

 しかし、例外的に研究者でも、英語が非常に上手な人がいることは認めます。1980年代初頭にプルックリンで研修医をしていた時、知り合ったH医師は、研究で留学していましたが、彼はほんとうに流暢な英語をしゃべりました。まず語彙が豊富でした。彼と一緒に、マンハッタンのピアノバーと称される、アメリカ人ホステスが会話の相手をしてくれる酒場によく行ったのですが、その時のH医師のアメリカ人ホステス相手の当意即妙な、ユーモラスでちょっとエロチックな英語での語りは今でも耳に残っています。でも彼は、どうも留学前から英語はかなり得意だったらしいのです。大学時代に軽音でジャズやポップスに親しんでおり、そういう英語の歌詞から覚えた語彙が多くあったのだと思います。

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木戸友幸
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