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91)旅先であったちょっといい話

 IDについての考えを巡らせた2019年夏のヨーロッパの旅で、いくつかのハプニングがありました。その際、旅先で偶然出会った人に助けてもらったエピソードとその時の感想をご紹介します。

 スペイン・バスク地方のサン・セバスチャンを訪れた時のことです。初日の夜にバルが立ち並ぶ旧市街を訪れました。アルコールもかなり入って深夜にホテルに戻ることになったのですが、昼とは街の雰囲気がガラッと変わり、筋を間違えたようで、ホテルになかなか行き着きません。途中で出会った中年のアメリカ人夫婦が「道に迷ったの?」と声をかけてくれ、主人の方がスマホの地図アプリを器用に操り、我々のホテルのすぐ近くまで連れて行ってくれました。ほんの10分ほどの道のりでしたが、深夜の道中です。本当にありがとうと礼を言うと、「僕たちのホテルも同じ方向だから、気にしなくてもいいよ。」と憎いセリフを言ってくれました。絶対そんなことはないと思います。彼がビル・ゲイツ風のメガネをかけたナイス・ミドルだったので、「あなた、ビル・ゲイツに似てるけど、彼の従兄弟?」と返すと、彼は破顔一笑、「そんな大金持ちの親戚だったらいいのにね。」と双方笑いあって深夜の別れとなりました。

 旅の後半で、ニースからパリに深夜に着く予定でした。ところが偶然ニース空港で一つ早い便に空きがあり搭乗することが出来ました。ですからパリの「ホテル」の住所に到着したのは深夜ではなく午後8時ごろでした。住所は確かに合っているのですが、そこにはホテルの看板はありません。普通のパリのアパートのようです。ホテル予約のウェブサイトにあった責任者の電話番号に日本から持ってきた携帯で電話しても繋がりません。その辺にいる地元民らしい人、数人に尋ねても、ここはホテルじゃないと言うばかりです。角を曲がったところにあるカフェに人の良さそうな若い男性二人がコーヒーを飲んでいました。その二人に、事情を何とか拙いフランス語で説明すると、一人がその角を曲がって、その住所のところまで行き、ちゃんと住所が合っていることを確かめた上で、彼のスマホで責任者に電話し、事情を説明してくれたのです。もう一人の青年は、もう少し詳しい情報を私に訊くために、「フランス語で難しければ、英語でもいいよ。」とまで言ってくれました。そうこうしているうちに、責任者の中年女性が到着し、ことなきを得ました。やはり、ここはホテルではなく、その責任者がオーナーのアパートの一室だったのです。彼女は別の近くのアパートに住んでおり、客の到着時刻にその住所のアパートの入り口で落ち合うというシステムなのです。ですから、知らせていた到着時刻より早く着いたために生じたトラブルだったのです。ウェブには、そんな情報は一言も書いていなかったのですが、後でパリに住む友人に訊くと、そういうことはここではよくあるとのことでした。

 この二つの旅先での事件で誰の助けも得られなかったとしたら、嫌な思い出だけが残ってしまったでしょう。でも、こんな洒落た会話を交わせるいい人たちに助けてもらうと、トラブルが逆にいい思い出に変身してしまいます。
 東京のオリンピック開催が決まった時に一世を風靡した「おもてなし」は、何も凝った特別なことをするのではなく、このような自然で、ちょっと洒落っ気のある手助けをするということではないでしょうか。

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木戸友幸
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