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医学教育  

「家庭医」によるプライマリ・ケア
第3回:「家庭医」育成のためのストラテジー


「プライマリ・ケア・フィジシャン」2003年12月号掲載
医療法人木戸医院 木戸友幸


1)若手医師・医学生に対するアピール
 家庭医を普及させるためにもっとも重要なことは、将来その担い手になる若手医師あるいは医学生に、家庭医の存在を知ってもらい、興味を持ってもらうことである。この目的のためにもっとも努力しているのは、家庭医療学会であろう。家庭医療学会では、年1回の秋の学術集会の他に、年に2回春夏に、若手医師と医学生のためにセミナーを開いている。また、学会有志で組織したPCFMネットワークを通じて、全国各地(海外も数ヶ所)で診療所実習を展開している。こういう努力が実り、若手を中心に家庭医療学会への入会がここ数年で急増し、2003年現在会員数は800人(2000年では300人 であった。)に達している。当学会では、近い将来を見越して、家庭医療学指導医の養成にも取り組んでいる。

2)メディアを動かす
 この10年ほどの間、新聞、テレビを中心とするメディアで、日本の医療に対する報道が増加してきている。そのほとんどが、大病院での効率のみを重視する医療への批判的な報道であるように思える。その対極として患者との対話や情報公開などの患者満足度を前面に打ち出した医療が注目を浴びるようになってきた。こういう医療を積極的に行っているのは、プライマリ・ケアあるいは家庭医に関心のある開業医であるこ とが多く、したがって、これらの開業医がメディアに取り上げられる回数が増えてきた。時を同じくして、2000年頃からプライマリ・ケア志向の医師をインターネットでつなぐメーリング・リスト(ML)がいくつか出来てきた。このMLの一つにTFCがあるが、このTFCのメンバーはこれまで、メディアに取り上げられることが多く(というよりそういう医師をメンバーに選んだという側面もあるが)、メンバーが何かメディ アに取り上げられる度に、ML上で、その紹介や、ここがよかった、次はこういう発言を加えたほうがいいといったような討論が交わされる。このフィードバックのためもあり、TFCメンバーのメディア露出度は最近になりますます増加してきているだけでなく、報道の正確さや「家庭医」普及のためのアピール度も増してきている。

3)人脈総動員作戦
 80年代前半に、家庭医を目指してレジデント留学した者たちやそれを支援した厚生省若手官僚たちのかなりの数が、それから20年経ち、大学医学部では教授に、厚生労働省では局長クラスになっている。また、プライマリ・ケア関連の各種学会においても理事、世話人などの学会の方針を決めるクラスは、ほとんどが、80年代前半から半ばにかけて若手医師として家庭医を志した者たちである。したがって、日本の日本のプライマリ・ケアの行方を決定する機関の幹部の多くがこの20年間、情報を密に交換し合ってきている「仲間」だと言っていい。これらの気心の知れた頭脳集団が、さまざまな立場で指導力と社会への影響力を行使していきつつあるので、日本のプライマリ・ ケアの将来は家庭医が担っていくようになるのはまず間違いないだろう。

4)おわりに
 一国の医療の根幹は充実したプライマリ・ケアにある。その担い手としての「家庭医」の広報や育成の近過去、現在それに近未来を、かなり独断的な切り口で3回にわたりご報告した。
家庭医がプライマリ・ケアの担い手になることに批判的な医師集団があることも、十分承知の上でこの連載を執筆した。最終的には、医療の良否を決定するのは、その受益者である患者である。「家庭医」に対する判定はこの10年ほどで下るであろうが、筆者はこの判定には極めて楽観的である。


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木戸友幸
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