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混合診療

JECCS, Newsletter 2004年2月号巻頭記事


 健康保険できちんと料金が定められている医療行為や検査などの他に、自由料金の診療や検査を加えることを混合診療と呼んでいる。混合診療は、国民皆保険の精神に反 し、金持ち優先の不平等な医療を招くということで、日本医師会は厳しい反対姿勢を打ちだしている。
私個人は、どちらかというと、混合診療に対し容認の意見を持っている。容認というより、むしろ、混合診療は人間の本能に基づいた診療形態であり、時代の流れからも避けられないものであると言った方が、正確かも知れない。その理由をいくつかの観点から述べる。

 日本の国民皆保険制度は、恐らく世界で一番効率よく運営されている健康保険制度であると思われる。この制度があったお陰で、世界に誇れる健康指標を達成できたのは間違いのない事実である。しかし、世界一の健康指標を持つ国の割には、国民の医療に対する満足度はかなり低いようである。このギャップはどこから生じているのであろうか?アメリカで3年、フランスで2年半の臨床経験のある私には、このギャップの原因が感覚的に分かる。日本の国民皆保険は、世界標準からみてあまりに平等過ぎるのである。俗な言い方をすれば、日本ではいくら金を積んでもいいサービスは買えない。このことが、このギャップの最大の原因の一つであろうと思われる。

 日本以外の先進国の現状はどうであろうか。無保険者が4千万人もいるアメリカは別にしても、日本と同等に皆保険の進んでいるフランスなどでも、「病気の時くらいちょっと贅沢をしたい」という層を含めての富裕層のための自由診療を認めている。フラ ンス以外のヨーロッパ諸国も、原則保険診療、一部自由診療可という「混合診療」が大勢を占めている。

 要するに、ヒトは本質的にわがままなのである。特に病気の時など積極的にわがままに振る舞いたくなって当然である。過去半世紀の歴史を振り返ってみても、人類の 「理想」とされた社会主義、共産主義は地上から消えてしまった。それらの「理想」は歴史によって否定されたのである。日本があくまで、人間の本質と歴史に逆らって「理想」を追い求めるというなら仕方ないが、混合診療反対派もそこまで腰は座って いないと想像する。混合診療問題に対しては、もう少し視野を広く持って対処することを提案したい。


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木戸友幸
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