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医学教育  


3学会合同シンポジウム報告

(プライマリ・ケア2007年6月号掲載)
木戸医院 木戸友幸

はじめに

 平成19年3月 21日、お茶の水の損保会館にて日本プライマリ・ケア学会、日本家庭医療学会、日本総合診療医学会の3学会合同による「家庭医機能を担う新しい専門医の育成」をテーマにした公開シンポジウムが開かれた。このテーマはここ数年間、3学会が幾度も討論を重ね早急に実現を図りたいと願っているものである。
各シンポジストの講演の概略とそれに引き続き行われた討論の要約を記すことにより報告としたい。

シンポジスト講演

1)我が国の医療事情・専門医制度について
  高久史磨氏(日本医学会会長)

 最近の我が国では、病院への患者殺到により病院勤務医の肉体的・精神的負担が増加し、これが勤務医の開業指向につながるという医療状況がある。この原因として医療へのフリーアクセスが挙げられる。何時でも誰でもは問題ないが、「どこでも自由に」というのには問題がある。
このため、我が国でもゲートキーパーとしてのプライマリ・ケア医が必要である。こういう体制を整えるためにはプライマリ・ケア医に総合医としての幅広い診療能力を獲得させる必要がある。またその能力に対して当然評価が与えられるべきである。
このプライマリ・ケア医の認定制については、日本医師会とプライマリ・ケア関係学会との調整が必要である。

2)日本医師会が考える生涯教育
  飯沼雅朗氏(日本医師会常任理事)

 日本医師会(以下日医)はこれまでから「かかりつけ医」運動を展開してきたが、平成18年から、かかりつけ医の質の担保についても、学術推進会議に諮問することにより検討に入るようになった。具体的には、かかりつけ医に特化した医師の専門制度は「認定医」と「専門医」の二段階制にし、専門医に関してはそれを認定する第三者機関を設置する。日医の考える専門医制の新たな構築により医療提供体制の整備を計る。日医の認定制の名称は総合診療医あるいは総合医を望んでいる。

3)家庭医機能を担う新しい専門医の育成 
  山田隆司氏(日本家庭医療学会代表理事)
  
 現在進行している地域医療の崩壊は、従来型の専門医だけでは日本の医療ニーズに対応できないことを示している。日本に不足している医師は、地域の医療ニーズに見合い、総合的な診療能力を持ち、継続的に診療の質が保たれているような医師である。このような医師を家庭医・総合医と呼びたいが、この後期研修プログラムは3学会の検討を経て、家庭医療学会の案が作成されている。今求められている家庭医・総合医は、いつでも、どこでも、誰でも診てくれる「地域の家庭医」であり、地域病院の病棟勤務や全科当直のできる「専門医療の狭間を埋める総合医」である。新しく育つ医師のための研修プログラムをこれからも改良していきたい。

4)プライマリ・ケアを担う医師の専門性
  小松真氏(日本プライマリ・ケア学会会長)

 日本プライマリ・ケア学会では、かねてから認定医・専門医の認定を行っている。プライマリ・ケアに関わる研修到達も目標を提示し、それに対応した多様なプラグラムの下に、全国的に研修が実施され、多くの成果をあげている。
プライマリ・ケアを担う医師の専門性は、単なる知識・技術評価ではなく、地域が必要とする人材としての専門能力を評価の基準としている。
この能力評価は、第三者を交えたプライマリ・ケア評価機構の設立に期待したい。

5)家庭医機能を担う新しい専門医の育成
  小泉俊三氏(日本総合診療医学会運営委員長)

 総合診療という言葉は、昭和51年、奈良の天理よろず相談所病院で、臓器別専門診療の行き過ぎに対する反省の上に「総合診療方式」として使われたのが最初である。その後、川崎医大に総合診療部が開設され、全国に広がっていった。総合診療の基本となる価値観は「コミュニケーションを重視した患者中心のチーム医療と科学的根拠に基づいた安全で質の高い医療の提供」という言葉に凝縮できる。診療の場による違いは、地域における総合診療の担い手が家庭医、大(学)病院における総合診療の担い手が病院総合医と考えると理解し易いと思う。技術の修練を重んずる臓器別専門医に対し、家庭医・総合医の役回りは患者の身近相談相手、患者の代弁者といったところであろう。

6)国民が求める家庭機能とは
  飯野奈津子氏(NHK解説委員)

 各方面から家庭医・総合医の育成に対し協力体制が整いつつあることを聴き、非常に心強く思う。子を持つ親として、日本の小児科崩壊が一番気にかかる。開業医が小児を診察しないため、患者が病院に集中することがその理由の大きな一つであろう。先ほど来の各講演も国民からするとまだ分かりにくい。まず、国民は認定医と専門医の違いは分からないだろう。認定医にせよ専門医にせよ、制度が確立すれは、どういう診療が可能かの情報をぜひ公開して欲しい。また、認定のハードルは絶対に下げないで欲しい。正直なところ、人柄も大事だが医師としての能力はもっと大切である。

 6人のシンポジストの講演の後、北海道家庭医療センターの草場鉄周氏が、自らが受けた家庭医療学の研修について非常にポジティブな意味合いでの指定発言を行った。

討論

 引き続き討論が行われた。まず研修のアウトカム(研修終了時の理想像)について各シンポジストが意見を求められた。高久氏は、アウトカムの達成は専門医より家庭医・総合医の方が困難と述べた。飯野氏は、家庭医・総合医は小児科が診れるようにして欲しい。またそのことの情報公開を強調した。小松氏も新しい専門制度では情報の公示が必要と述べた。それらの情報に関しては、現在でも地方自治体のネット情報でかなりのことが知ることができるのではと高久氏が補足した。飯野氏からアウトカムの評価はどうするのかとの質問が出て、それに対し小松氏と山田氏が、現在まだ研修プログラムの準備が進んでいる段階であるとの回答があった。最後に飯沼氏が、研修と絡めて、過疎地域の医療を支えることもして欲しいとの意見を述べた。
 フロアーの東京女子医大救急部の石川氏より、現プログラムでは救急の機能が抜けたおり、救命救急の研修は最低3ヶ月は必要との意見が出た。これに対し、小泉氏は、現在でもERタイプの救急と総合診療部との協力体制はよいとの回答があった。山田氏からは、家庭医・総合医の研修でも、救急は二次、三次のものまで必要と回答した。
 次にフロアーの千葉大総合診療科の生坂氏より、家庭医・総合医に対し患者は高すぎるレベルを求めている。我々はスーパー医師ではない。7割のことが確実にこなせる医師であるとの意見が出た。これに対し、飯野氏は、患者の立場としては、特に小児科に関しては求めるレベルが高くならざるを得ないと述べた。

おわりに

 これまではプライマリ・ケア関連3学会のみで討論されていた家庭医・総合医の専門医育成問題を、日本医学会、日本医師会、それに一般市民代表を交えて公開シンポジウムの形で討論したところに今回の催しの意義がある。初回の試みであり、討論の盛り上がりにやや欠けるきらいがあったが、家庭医・総合医の専門的な育成が必要であるとの共通認識は確認できたようである。


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木戸友幸
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