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ボタン 今後の臨床研修への提言  ボタン

ジャミックジャーナル、1991年12月号掲載
医療法人木戸医院 木戸友幸

1)はじめに
 この9月13日に医療関係者審議会臨床研修部小委の`中間まとめ`(以下、中間まとめ)が提出された。この中間まとめは、これまでのこの種の報告と比較して、かなり 具体性があり、一歩込んだ内容のものになっている。これを簡単に御紹介したうえで、今後のわが国の臨床研修への、私なりの提言を行ないたい。

2)中間まとめの骨子
 まず、全人的医療を実践できる医師を、期待される医師像として挙げ、このためにはできる限り幅広い研修が必要としている。このための具体策として、従来の病床数、患者数といった`研修の場`を中心とした考え方を改め、`研修の内容`を重視する。 また、この内容重視の考え方と並行し、研修の場を一つの大病院だけでなく、中小病院、診療所、さらには保健所なども含ませる研修施設群構想を、研修プログラム達成 のために推奨している。

3)中間まとめの評価
 今回の報告に盛られた、研修の内容重視と研修施設群構想は、いずれもプライマリ、 ケア能力の獲得のために非常に有効な手段に成りうるものであることはもちろんのこ とであるし、これまでのローテート方式、さらには総合臨床方式と比較してより根本的な研修の改革を目指している点で評価できる。また、中間まとめの内容に沿った研修プログラム開始の時期を、単に`可及的速やかに`という表現のみでなく、平成6 年の努力目標を明記したことに、これまでにない意気込みが感じられる。 しかし、振り返るに、わが国の臨床研修にプライマリ、ケア能力の教育が必要である と日野原重明氏により始めて提言されたのが昭和48年(1973年)であることを考えると、ここに至るまでの時間があまりにも長かったという感じは否めない。

4)筆者よりの提言
 今回の中間まとめを、最初に見たとき、正直をいって、非常にすんなりと納得のいく感じがした。それもそのはずで、この中間まとめは、米国の卒後研修制度を、かなり参考にしている節が伺える。私自身、1980年より3年間、厚生省のプライマリ、ケアの指導医養成のための米国留学を終えて後、機会のあるごとに米国でのレジデント研修体験を踏まえての意見具申をしてきたからである。
しかし、今回の中間まとめに盛られた、さまざまなプライマリ、ケア能力を獲得する研修手段は、一昔前の米国のインターン(特にローテーテイング、インターンシップ) によって行われたものである。現在?これらの研修は、すべて医学部の卒前臨床実習 のなかに組み入れられているので、米国ではインターンという言葉はもはや存在しない。わが国でも、卒前の臨床実習を将来的にもっと充実させて、卒業した時点である 程度のプライマリ、ケア能力がついている状態にまでならなければならないと思う。 というのは、患者のニーズの多様化と同じくらいに医師自身のニーズも多様化しており、2年間にわたってプライマリ、ケアのみに的を絞った研修を義務化しても、果たしてどれだけの医師が能動的にそれに従うかは疑問であるからである。
すべての医師に必要なプライマリ、ケア能力がる程度卒前教育で養成可能になるとすると、次に2年間の臨床研修をその後の各専門科における研修と切り離した状態で行なっている現在の日本の卒後研修の構造自体を問題をせざるを得ない。ここはすっきり、先進主要国および近隣の韓国、台湾でも実施されている、全国統一規格の各専門 科別のレジデント制度にわが国もそろそろ移行すべきではなかろうか。もちろん、そのなかの一つとして、将来的にもプライマリ、ケアを担う家庭医あるいは一般内科医的な科も含まれなければならない。日本の医学界の現状を省みると、これを実施することは、特にリーダーシップの面でかなり困難なように思える。しかし、各大学の医局中心の発想から抜け出せない限り、日本の臨床医学研修ひいては医療全体の大幅な質的改善は望めないのではなかろうか。
現状打開の一私案を挙げる。厚生省、医師会、大学といった日本の医学界を仕切る各組織のすべてに顔がきくような人物が、それぞれの組織の主要人物に会い、まず十分 な根回しをする。そのうえで、ある一定のシナリオをつくり、医師以外の人物で構成 した委員会から、改革案を提出してもらうのである。もちろんこれは、米国のミリス報告などを念頭においたものだが、医療を受ける側からの要望であれば、わが国でも 医療者に与えるインパクトは大きいと思われる。各科レジデント研修プログラムの基準が出来上がった時点で、厚生省が新規にレジデント研修を始める施設に大幅な援助を行なうのである。そのような予算は、まったく現状無視であるというのなら、巨額予算を使わざるを得ないODAを利用する手もある。研修終了後、何年かを海外での医 療協力にあたるというような工夫で十分可能なように思える。
以上、あまり裏付けのない空想めいた提言を行なったが、何らかの参考になれば幸いである。


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木戸友幸
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