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家庭医木戸の現場報告(25)
2026年4月号 JECCS News Letter
日本の医療費:高い、安い?現状と将来
週4回勤務で管理医師を務めている特別養護老人ホーム(以後特養)で、ある高齢者入居者の一生を観察することができました。ちょっと大袈裟な表現かもしれませんが、特養に入所する人の多くは、ここに来るまでに病院や老健施設に入所しており、そこでの多くの書類とともに入所するのです。ですから、それらの書類を読み込むと、その入所者の既往歴とともに、その入所者の精神に影響した多くの出来事も判明します。そのため入所した時点でその人のこれまでの精神面を含めた医療の歴史が、ほぼすべてが分かるのです。(本人から入手できる情報は、ほとんどないか極めて限られています。また超高齢者では、家族からの情報入手も望み薄です。)
さて、ここからが今回の主題です。この入居者は80代半ばの女性です。40代の頃から始まった狭心症発作のため最初の冠状動脈ステント留置を2000年代初めに受け、その後、何と4回同様の治療を受けているのです。最後のステント留置は2025年の年明けの頃でした。また持病に糖尿病、高血圧、脂質異常症と動脈硬化を促進させる疾患すべてを持っている方です。私が管理医を務める特養に入所してからは、少なくとも狭心症症状の発症はありませんでした。しかし、2025年年末に高熱を来たし、近隣の病院で検査すると胆嚢炎の診断でこれもカテーテル手術で一旦落ち着いたように見えたのですが、数日後突然の心停止で亡くなられました。恐らく、繰り返したステント留置で何とか働いていた心臓が最後の負担で耐えられなくなったのだと思います。
この方は様々な疾患を抱えながらも、現代医療の治療手技によってほぼ日本の女性の平均寿命まで生存されました。また、国民皆保険、高額医療費制度、介護保険制度などの日本の手厚い保険制度により、自己破産、生活保護などとも無縁で人生を終えられました。日本の医療費は国策で非常に安価に設定されているので、実費でこの方の全人生での医療医を払ったとしても一千万円は超えていないと思います。ところが、日本と同様の国民皆保険のヨーロッパ諸国の医療費と比較しても、日本の医療費は初診料からしてヨーロッパ諸国の数分の1、検査や高度な医療手技に至ってはもっと安価に設定されています。また、無保険者が極めて多く、中産階級の自己破産の原因で医療費が上位を占める米国と比較すると桁が一桁、場合によっては二桁少ないのが日本の医療費です。現在の世界は、経済的にはグローバル化しており、どの国も、様々な努力をして現在の医療費を決めています。日本の医療費が元々国によって安価に設定され、それを様々の制度によってさらに安価にしているのは、何か日本が他国の思い付かない素晴らしい方法を発明したからではありません。日本国が様々な事情で無理に無理を重ね、国民に財政援助しているだけの話です。我々医療関係者の感覚では、この世界一安価で質の高い医療は、あと10年も持たないと思います。その原因は、人口減少と高齢化です。この二事象とも少なくとも21世紀半ばまで続きます。我々、日本国民はまず、グローバルな視点で日本の医療の現状を正しく認識することが必要です。その正確な現状認識から、国民的な議論を進めていくことが望まれます。
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