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100)Work!

 「異文化コミュニケーション」は、ほぼ8年前から月1回で連載を始め、今回で100回を迎えることになりました。まさか100回も続けられるとは思っていなかったので、自分でもびっくりしています。
 この際、このブログの産みの親を読者の皆さんにご紹介したいと思います。それは大学の同級生のKくんです。なんだ仮名かとお思いでしょうが、今回、本人に同意をとらずサプライズで書いているので仕方ありません。この異文化ブログの前に「ブルックリンこぼれ話」に引き続き「湾岸危機コンフィデンシャル」を連載していましたが、その愛読者の一人がKくんだったのです。

 湾岸が終了した時に彼が「おい木戸、もうなんかオモロイ話、無いんかい?」と私に新たな執筆を懇願したのです。Kくんは、そのイニシャルからして推察されるように、医大時代の6年間ずっと同じ実習班(日本中どの医大、医学部でもだいたいそうなっています)で過ごした「戦友」です。その戦友でもありブログ愛読者でもあるKくんの懇願を無視することはできませんでした。でも、いくら世界を股にかけて活動してきたドクター木戸でも、これ以上の体験談は中々思い浮かびませんでした。思い悩んでいたある日の日曜に家の周りを散歩中に、そうだ、縦割りのテーマ別のブログではなくて、これまでの体験が横断的に繋がる異文化に関するエピソードをその時々の観た映画、読んだ新聞記事、小説などに絡めて書けばいいんだ、ということを思いつきました。散歩から帰って早速、アメリカから帰国した直後の国立大阪病院でのエピソードを書き始めました。

 この第一回がアップされた2012年の某月にKくんから早速メールが届きました。「約束守ってくれたんやなあ。最低50回くらいは続けてや。」それに答え「よっしゃ、これやったら100回は大丈夫やで。」と大きく出た私。それが8年後、現実になったわけです。前置きが長くなりましたが、何しろ100回記念です。お許しを。それでは100回記念に相応しい異文化エピソードです。


 1971年、医大に入った年ですから19歳(一浪してますので)の時の話です。大阪市北区の扇町というところのYWCA英語学校の夜間クラスに週3回通い始めました。その時の一人のアメリカ人男性教師の思い出です。
 彼は恐らく50代くらいだったと思いますが、日本の文化、歴史(現代史を含め)に極めて精通していました。恐らく日本語も漢字を含め、読めたり話せたりしたのだと思います。その証拠に当時ベストセラーになった高野悦子の「二十歳の原点」をちゃんと「ハタチのげんてん」と発音していました。奥浩平の「青春の墓標」も読んだらしいです。これら、当時の学生運動の貴重な第一次資料と言えるような作品を読んでいるかと思うと、「先週末に四天王寺で寺参りをしてきた。」ともちろん英語で話してくれたこともありました。そして、もちろんシテンノウジと固有名詞は明瞭に発音していました。


 この教師が、授業で「あなた方は人生で一番大事なことは何だと思うか?」という問い掛けをしたことがありました。我々は「趣味を持つこと」とか「できるだけたくさんの外国語を学ぶこと」といった反応をし、少し冗談混じりに「金儲けをすること」という意見まで出ました。すると彼は一言、`Work’と言った後で「私は、自分に合った仕事をみつけ、それを一生懸命にやり遂げることが、人生で一番大事はことだと思う。」と言い切ったのです。

 当時19歳の私は、アメリカ人との直接の接触はそれほどありませんでしたが、それまでに会ったアメリカ人は会った途端にファーストネームで呼び合うようにフレンドリーですが、少し軽いタイプの人物が殆どでした。京都の中高一貫の私学の進学高出身の医大の同級生(彼はKくんではなくNくんです)が、彼の中高時代のアメリカ人英語教師のエピソードを語ってくれたことがあります。その教師も日本ファンで、彼の腕時計はカシオのGショックでした。彼はこのGショックはどんなショックにも耐えると自慢げに言って、その時計を教壇から、教室の後ろの壁に向かって投げつけたのだそうです。もちろんGショックは見事に壊れてしまいました。そんなこと日本人なら小学生でも分かることです。このように、アメリカ人はよく言えばフレンドリー、悪く言えばちょっとおパカといったキャラが、私の印象だけでなく、世界中で流布されているようです。


 実は19歳という若さで、「人生で一番大事なことはWorkだ。」というアメリカ人と出会ったことを私は大変ありがたいことだったと思っています。医大卒業後、3年間をアメリカで研修医として暮らし、帰国後も患者として多くのアメリカ人と接する人生を送ってきました。その体験から得られたアメリカ人の国民性は、正直言って、やはり多少おバカキャラといった感じではあります。しかし、中にはYWCAで出会った、人生を超真面目に考えているアメリカ人も存在するのです。

 私の履歴から、ブログや講演などで様々な国の「国民性」に関し質問を受けることがよくあります。この時の私の答えは、「自分の過去の様々な体験から、確かに各々の国にはある種の国民性は存在すると思います。そのことは事前に知っておく方が何かの時に役には立つでしょう。しかし個人的に異文化圏の他人と向き合った時は、その個人の言動からの判断でその人を判断するのがいいと思います。」といった感じのものです。

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木戸友幸
mail:kidot@momo.so-net.ne.jp