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102)現代中国の医療事情からの考察

 「低待遇が招く中国の医師不足」という興味深い話題が、2020年9月1日の日経朝刊の英誌The Economistからの翻訳記事にありました。数十年前の中国の医療は医師の技量や医療機関の設備が当時の先進諸国とかなり差がつくほど劣っていたことは、様々の公開情報から知っていました。しかし、今回の新型コロナ感染で、最初に感染源になった国ではあったけれど、報道によるとその対策は迅速で医療の質もかなり向上しているように感じていました。ところがこの記事によると、それがそうでもなさそうなのです。

 中国の現代の格言に「医者の子は医者にならない」というのがあるそうです。また、最近医師による収賄事件や偽造薬製造などの事件が多い。極め付けは、中国医師協会の2017年の調査によると、医師の実に3人に2人以上が怒った患者の家族から暴行や脅迫を受けたことがあるそうです。記事によると、これらの根源は、医師の待遇の悪さにあるというのです。中国ではベテランの医師でさえ平均的な年収は10万元(約150万円)で、大都会ではとても高収入とは言えない、というか世界第二の経済大国の医師としては低すぎる収入なのです。

 ここからは、この情報を得た上での私の思いです。現在、日本の高額所得者の遥かに上をいくスーパーリッチが数千万人はいると言われる中国、その国の「エリート」の一角を占める医師の年収が150万円とは、衝撃というより、もう笑うしかありません。これでは、もっと医学知識を増やそうとか、医療技術を改善しようとかいった動機付けは働かないはずです。中国人医師が知識や技術の不足から患者家族から暴行や脅迫を受けるのも何となく納得できてしまいます。医師の収入が極端に低いのは、中国だけでなく、ソ連時代のロシアでもそうでしたし、それは現在も続いているようです。共産主義、社会主義の体制下では職業に関係なく収入は低い方に横並びです。それが90年以降、突然経済だけは資本主義、政治は共産主義のままに変わった中国、その両方が資本主義に変わったロシア。両方の国で医師の収入はそのままに放置されたということでしょう。私が知る限りでは、中国の共産党幹部が利用する病院には設備も質のいい医師も揃っており、彼らは医療先進国並みの医療が受けられるのです。それを、考えると日本の医療は現在唯一の「金持ち共産主義国」である中国よりはるかに真に共産主義的だと思います。そんなことを知ってか知らずか、日本のマスコミは日本の医師、医療のことを貶すことしか考えていない気がします。

 そこで、今回の私なりの結論です。中国は自国民の命を守るために、医師の平均収入をせめて現在の10倍にはすべきです。それでも現在の中国では小金持ち程度の額のはずです。ついでに、日本の医療政策にも苦言を一言。ガチガチに固めた「国民皆保険」は、医師をどんどん疲弊させています。これは、今回の新型コロナのパンデミックでより明確になりました。普通のヨーロッパの国民皆保険国がずいぶん前から行っている、一定の率で透明性のある自由診療を自信のある医師が合法的に行える制度にすべきです。政治家、マスコミ諸氏、そして、日本医師会の幹部の皆さん、山本周五郎の「赤ひげ診療譚」をもう一度読み直してください。赤ひげは、貧者からは金をとりませんでしたが、金持ちには好きなだけの診察料を請求していました。

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木戸友幸
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