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109)Donna Tarttの知られざる世界観

 村上春樹さんのお勧めの現代アメリカ文学作家ということで、ドナ・タートのゴールド・フィンチ(Gold Finch)を、2018年秋に読み始めました。これは英語版のベーパーバックで800ページの超大作なのですが、一度も挫折することなく読み切りました。私も医師としても一応現役で仕事していますし、趣味のフランス語の小説も並行して読んでいます。ですからドナの作品にかける時間は特養の始業前の30分のファミマのイートインの席でのみと決めていました。ですから読破には、4ヶ月ほどかかってしまいました。しかし、この朝の30分は私にとっての珠玉の時間でした。
 美人の母親をニューヨークの美術館でのテロリストの爆破事件で亡くしてしまう主人公の高校生テオ。事件現場に母親と一緒にいたテオも負傷はしますが、命は助かります。その時、偶然に爆破で廊下に吹っ飛んできた名画、ゴールド・フィンチをネコババしてしまうのです。別居していた父親がテオを引き取り、彼が愛人と暮らしているラスベガスに転居するテオですが、ベガスの高校で親友になるのが、ロシア移民のボリスです。ボリスは、よく言えば何事にも動じず自然体、悪く言えば超いい加減。私が1980年代に研修医として過ごしたブルックリンで友人の一人だったロシア系ユダヤ人の研修医にそっくりのキャラクターなのです。ボリスもこの名画に興味を示します。ボリスは成人して、闇世界のボス格になり、アメリカ、ヨーロッパ諸国を股にかけて暗躍するのですが、テオとも再会することになり、ゴールド・フィンチを巡っての様々の展開があります。「異文化コミュニケーション」に興味のあるこのブログの読者諸氏には絶対お勧めの作品です。ぜひ原作で読んでください。日本語訳は、値段も原作の3倍以上で、あまり評判は良くないようです。

 ゴールド・フィンチに触発され、次に読んだのが、同じ著者のThe Secret Historyです。この作品は、最初はあまり動きがなくちょっと退屈で、2割くらい読み進んだときにもうギブアップしようかと思いました。しかし、3割くらいのところから加速度的に面白くなり、最後まで読み通しました。アメリカの田舎にあるリベラル・アート中心の大学で起こったある事件を描いています。主人公の男性が選んだクラスはギリシャ語やラテン語の古典文学を学ぶクラスなのです。この作品を読んでアメリカにもこんな大学があるのだということを始めて知りました。

 ということで、春樹さんに教えてもらわなければ一生知ることのないドナ・タートという作家を知り数ヶ月間の至福のときを過ごしたという話でした。

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木戸友幸
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