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124)生娘シャブ漬け作戦

 2022年4月に、牛丼チェーン吉野家の常務が早稲田大学で開かれた有料の経営セミナーで講演し、吉野家の経営戦略の一例として、上京して東京で生活を始めた若者を如何にして吉野家の常連にするかの戦略を語りました。その時使った表現が「生娘をシャブ漬け作戦」でした。それに付け加えた説明が、「ぽっと出の若い娘にとって牛丼は旨くて値段も手頃だからハマりやすい。金回りのいい彼氏ができて贅沢なディナーの味を覚えたらもう遅い。」というようなものでした。この発言がすぐさまSNSで炎上し、3日後に彼は吉野家を解雇されました。

 確かに、牛丼チェーンの現役重役が売上のために若者を牛丼中毒にするとの発言は、一般的な商道徳とは相容れないばかりでなく、どう考えてポリティカリーコレクトな表現とは思えません。また使った単語が、「生娘=うぶな処女」、「シャブ漬け=暴力的に覚醒剤中毒にさせること」とハラスメント感満載で、SNSを故意に挑発したのかと思うくらいです。

 この騒動の直後に少し考えてみました。確かにこの発言は下品で不快です。でも犯罪かと言われると、何か法律を犯したわけではないので、そうではなさそうです。

 この事件で私が瞬間的に思い浮かべたのが、1990年代に頻発したアメリカのタバコ訴訟です。これらの訴訟は、喫煙が原因で肺癌などで死亡した家族が大手タバコ産業に対して起こした訴訟です。訴訟額が極めて高額であることもあり、世間の注目を集めました。原告側の弁護士団も勝訴した時の高収入というインセンティブに惹かれきわめて綿密な調査を行ったのです。複数の大手タバコ産業の重役会議記録より、彼らはニコチンが特に若者に対して耽溺性をもたらすということを十分認知していたことが突き止められたのです。このことを踏まえて、若者をターゲットに絞り市場展開をするという会議録も探し当てられました。まさに「うぶな若者ニコチン漬け作戦」です。90年代から現在に至るまでのアメリカでのタバコ訴訟は、原告がほぼ全勝なのです。ですから、「うぶな若者ニコチン漬け作戦」は法律を犯し、敗訴に至ったわけです。生娘作戦は裁判にはなっていませんが、「歴史は繰り返す」の好例です。

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木戸友幸
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