Dr.Kido History Home
E-mail

国際医療協力

ボタン Dr. 木戸流「異文化コミュニケーション」 ボタン

127)米仏の日常会話の表現法

 今回は私が数年以上現地で住んで仕事をしたアメリカとフランスの日常の会話の特徴について語ってみます。

 まずは、28歳から31歳までの3年間を過ごしたアメリカから。アメリカ人は対話相手のウケを狙った会話表現が多いです。その点、関西人に少し似ているようです。話題は現実に起こったことより5割り増し程度、盛って喋ります。そのための形容詞が山ほどあります。outrageous、unbelievable、fantastic等々。最近身の回りに起きた出来事を語るときも、即興のコントのように喋ることが多いです。ですから、登場人物も声色を使います。女性研修医が気に入らない男性指導医の言動を語るときは、太い声でゆっくり喋るといった具合です。こういう話し方に子供のときから慣れているせいか、アメリカで個々の対話で喋り下手の人にほとんど接したことはありませんでした。ですから、アメリカ生活を始めて半年ほどして、英語にも慣れて来たときには関西人のウケ狙いの話法でかなり自然に日常の対話ができるようになりました。
一つだけ真似ることを躊躇した単語があります。男性の研修医仲間での会話では、活字では禁忌とされるFで始まる四文字の単語(それにingを加えることも多い)が異常に多いのです。ハリウッド映画では、この単語が頻発する会話は定番ですが、一般人がこれほど多用するとは思っていませんでした。

 さて、次は40代半ばで2年半を過ごしたフランスです。当時、私のフランス語はまだまだ拙くて、アメリカでの体験ほど自信を持って語れないのですが、フランス語に堪能な日本人の友人の見解なども参考にして、ご紹介します。
アメリカ人も話好きですが、フランス人はそれに輪をかけて話好きです。しかし、その話し方には明らかに違いがあります。上述したように、アメリカ人はウケ狙いの会話をしたがる傾向がありますが、フランス人はどちらかというと、冷静に理詰めで自説を述べるといった自己主張型の会話が多いようです。例えば、バカンスに海に行くか山に行くかといった会話では、山派の主張は、「フランスの海の代表は南仏なので人が集まり、雑踏状態でまったく楽しめない。その点、山は分散していて人もほどほど、それに夏でも涼しいからね」といった感じのものです。相手の論理に言い負けたときは、負け惜しみの強いフランス人は「負けました」とは言いません。そのときの言葉は、Ce que tu a dis, c’est logique.(君の言い分は論理的だ)と言うのです。このフランス人の理詰めの会話は、フランスの教育制度にあるのかも知れません。フランスでは高校教育において例え理系であっても哲学が必修科目なのです。そこでは、古代ギリシャ哲学から現代哲学までのすべてを原典に沿って学び、もちろん学期の終わりには論述式の試験もあります。

 私は開業を辞めた2016年から、週一回のフランス語の夜間クラスでの授業を再開しました。フランスから帰国した1997年から10数年間通っていたのですが、2013年より休んでいたのです。その授業も2020年の春からは、新型コロナのためZOOM授業になっています。2021年春のある授業の時に米仏の会話の特徴について議論したことがありました。その時の女性フランス人講師はアメリカでも数年間フランス語を教えた経験があり、なかなか充実した議論ができました。彼女が言うことには、フランス人は二人での会話では、アメリカ人より距離をおいてしまうと言っていました。職場でもアメリカ人のように、上司が部下にすぐにファースト・ネームで呼ばせるということはフランスでは普通はしません。前述したアメリカ人研修医の指導医の声色付きの語り口を私が紹介した時は、「私もアメリカ人の話芸に感心した」と笑っていました。

p.s. 2022年の夏にCharles Pepinという自身も哲学者であるフランス人の著書:Les Dix Phlosophes(10人の哲学者)を読みました。この本にはプラトンから始まる、世界を変えた10人の哲学者の思想要約が書かれています。端的に言うと、これはフランスの高校生向けの哲学試験対策本なのです。しかし、70歳を超えた私からしても、これだけのことを高校生レベルで学ぶのは凄いなあと感じました。

| BACK |

Top


木戸友幸
mail:kidot@momo.so-net.ne.jp