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131)認知症治療薬の進化

 2023年1月5日号のNew England Journal of Medicine (NEJM)の巻頭記事に「初期アルツハイマー型認知におけるレカネマブ」が出ていました。レカネマブという薬はエーザイ製薬が開発したもので、アルツハイマー型認知症(以下認知症)の原因と考えられているアミロイドβを減少させるという画期的なもので、高齢化とそれに伴う認知症の増加に悩む世界中の国々から注目されています。このNEJMの発表の後の1月中に米国と日本の認可が下り、フランスを始めとするヨーロッパでも認可は間近らしいです。

 さて、このレカネマブを開発したエーザイは、40年前から認知症薬の開発に熱心に取り組んできたことが知られています。1980年代に開発したドネペジル(商品名アリセプト)も世界中の注目を集め、特許が消滅するまでの10数年間、エーザイのドル箱製品でした。まだ治験薬時代に、認知症に陥ったレーガン元大統領が妻ナンシーの強い要望で服用したという報道もありました。しかし、このドネペジルは神経伝導物質であるセロトニンの活動性を増すことで効果を発揮するという触れ込みだったのですが、原因療法ではありませんでした。また、使用している医師の間でも、効果を実感できるほどのものではありませんでした。

 エーザイ製薬は創業主の孫である内藤晴夫氏のもと、ドネペジルの開発後も本活的な原因療法に迫る認知症薬の研究開発に取り組み続け、ついに今回のレカネマブに辿り着いたわけです。しかし、レカネマブのようなピカ新(画期的新薬)は各国の認可を受けて実際に使い始めてからが勝負なのです。効き目があるかどうかもさることながら、副作用が多く出ればその時点でアウトです。現在可能性がある副作用でもっとも心配されているのが、出血、特に脳出血です。

 レカネマブが近い将来、世界各国で使われ始め、それなりに効果を発揮し、重大な副作用も現れなければ、その利益たるや、それこそ天文学的なものになるはずです。NEJM,1月5日号は医療関係者だけでなく、世界中の英語を理解する証券マンも読んだはずです。実は10年以上前から、NEJMの読者で医師の次に多いのは証券会社関係者なのです。今の時代、製薬会社を持続させるためには世界中で売れなければ利益が出ません。利益が出なければ開発費も出ません。ですから、「赤髭=赤貧に甘んずる」といった認識は、少なくとも製薬業界ではまったく通じません。

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木戸友幸
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