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134)スージーとミュスカデ

 今回のタイトル、何のこっちゃ、ですよね。でも少し長くなりますが、読んでいただくに従って、ピッタリなタイトルであることがわかっていただけるはずです。

 1995年からパリ郊外のヌイイにあるパリ・アメリカン病院で開業することになりました。最初の1ヶ月ほどは病院の研修医用の宿舎で寝泊まりし、アパート探しをしました。運良くメトロで30分ほどで病院に通える17区の凱旋門のすぐ近くのアパートが見つかりました。単身赴任で料理は卵焼きくらいしかできないので、観光客が多くレストランが日曜でも開いているこの界隈がいいかと思い決めました。最初はフランス料理をいろいろな店で楽しめるとあって、満足していましたが、これが連日となると1ヶ月も経つと少しきつくなってきました。かと言って、アパートと病院のちょうど中間にある高級寿司店はそうそう頻回には通えません。

 いろいろ探したところ、灯台下暮らしで、アパートから5分のところにあるトロワヨン通りにある中華レストランに入るとなかなか美味しく、値段も手頃でした。接客をしてくれるのが、店のオーナーシェフの妻、スージー(もちろん本名ではないと思う)でした。彼女は大陸中国から夫婦でフランスに渡ってきた華僑一世なのです。スージーはフランス語も英語も接客に不自由ないほどにしゃべれ、フランス人客にも観光客にも人気のある店でした。半年後には、ほぼ週一で通うようになり、彼女とお互い少し拙いフランス語で世間話を交わすようになりました。ある時、私の1日の診察患者が始めて10人を超えたことを報告すると、自分への褒美の料理として、店の自慢のmarmite des fruits de mer(海鮮鍋)を勧めてくれたのです。それに加え、この鍋に合わすのはこれしかないとMuscadet(ミュスカデ、ナント地方の酸味がありフルーティーな白ワイン)のハーフボトルも勧めてくれたのです。この日以降、私がニコニコしながらその日起こった朗報を伝えると「今日はmarmiteとMuscadetね。」と言ってくれるようになったのです。

 さて、それから20年以上経った2018年に妻と一緒にパリをセンチメンタル・ジャーニーした際に私の住んでいた17区のアパートの前まで寄ったついで昼食どきにスージーの店を覗いてみたのです。すると店内で中年のアジア系女性が接客していました。私はスージーの顔を思い出すために彼女を凝視していると、何と彼女の方から”Si par hazard vous êtes le médecin a l'Hôpital Américain?”(ひょっとして、あなたアメリカン病院のお医者さん?)と言ってくれたのです。もうこちらは大感激です。もちろんその日の昼食メニューは、これも彼女がしっかり覚えてくれていた、海鮮鍋とミュスカデでした。そして帰り際にスージーとの2ショットの写メを妻に撮ってもらったのです。

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木戸友幸
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