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4) アジアの同胞の文化も様々

 今回の患者は24歳フィリピン女性のレイチェルです。彼女は、名門フィリピン大学卒業の才媛で、大阪の某国立大学の大学院に留学しています。日本滞在は受診当時でもう1年を超えているのですが、腰痛がひどく勉学にも支障をきたすとのことで、国立大阪を受診しました。実はレイチェルは数カ月前から留学先の医学部付属病院整形外科に通院していたのです。しかし、そこでは病態の説明はほとんどなく、ただ鎮痛剤の処方が繰り返されただけだったとのことでした。

 初診時のレイチェルは、消耗しきった顔つきで、この腰痛がこのまま続けばもう帰国するしかないと言いました。診察すると、椎間板ヘルニアを示唆する所見もなく、普通の腰痛症の印象でした。それでも、慎重を期して、同僚の整形外科医に連絡をとり、診察をしてもらいました。彼の診察でも通常の腰痛症を超える所見はないとのことでした。

 これらの診察過程をすべて英語で説明し、腰痛体操などの指導もして、何度か通院してもらいました。すると、あれほど頑固だった腰痛も嘘のように改善したのです。レイチェルの場合も、これまで受けてきた診療に対する不信が症状改善のネックになっていたのです。

 さて、ここで皆さんに伝えたいのは、フィリピンの言語事情についてのことです。言語は文化と密接に関わっていますから、文化事情と言ってもいいでしょう。フィリピンの高校以上の高等教育は、ほとんど英語でなされているといって過言ではありません。大学となると、講義も教科書もすべて英語です。ですから、レイチェルの場合も英語は彼女にとって、ほぼ母国語なのです。高等教育を受けたフィリピン人にとっては、医療も歴史的にみてアメリカ文化の影響を強く受けていて、説明と同意(informed consent)がなければ満足できないのです。

 日本では知識人のはしくれである医師でも、日本人以外のアジアの同胞に対しては、ややもすれば下に見る風潮があるように思います。アメリカ文化になじんでいるからといって、それを尊ぶ必要はありませんが、少なくとも、その文化事情を認識していることは、医療上必要だと思われます。

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木戸友幸
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