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44)時間にルーズなフランス人患者

 ヨーロッパでは南に行けば行くほど、人々の時間に関する感覚が大雑把になります。フランスはどちらかと言うと「南型」のようです。ホームパーティーに招かれた時は、15分遅れで到着するのが礼儀とされているくらいです。ですから1時間以上遅れなければ、まず非難されることはありません。

 大阪で診療していても、こちらが指定した時刻に遅れて来院するフランス人はかなり多いのです。ここで、その中の一例をご紹介します。
午前中に医院にフランス人男性から電話があり、不整脈を診察して欲しいということでした。そこで、午前の診療が済んでからの午後1時に来院するように指示しました。しかし、午後1時になっても彼は現れません。その日は、特に外出する用事もなかったので、医院で書類仕事をしていました。午後2時になってもまだ現れません。さすがに予約時刻に1時間遅刻では、もう来ないだろうと思っていました。ところが、午後3時に何と2時間遅刻で彼は来院したのです。

 開口一番、悪びれた様子はまったくなく、にこやかに「遅れて済みませんでした。」と謝った彼は、浅黒い顔の知的な美男子でした。ここまであっけらかんと振舞われると、こちらも毒気を抜かれてしまい、「気にしなくてもいいよ。午後は書類仕事で外出の用事もなかったから。」と言ってしまいました。
書類仕事はとっくに終わっており、夜診は午後5時からということで、かなり長く雑談しました。彼は北アフリカからの移民2世のフランス人で、フランスの大学で理論物理学を学び、現在大阪市内にある某大学の大学院を終了間近ということでした。そうなんです。すごい秀才だったんです。でも秀才であるからといって、時間にきっちりしているとは限らないことがこの時分かりました。

 彼の本題は、日本留学終了の記念に友人と富士登山をする予定なのだそうです。ところが、最近時々脈が飛ぶ感じがするのだけれど大丈夫だろうかということでした。訊くと、大学時代からスポーツもよくしていたし、現在もジョギングで登山のトレーニングを続行中で特に問題はなく、喫煙もなしということでした。数分間、脈をとっても不整はありませんでした。その時間帯、看護師は不在ですが、心電図はとれないことはありませんでした。しかし、この状態では、数分間の心電図をとっても不整脈が記録される可能性は極めて低いと思われました。これら全てを彼に説明し、状況証拠から、富士登山はまず問題ないでしょうと、結論付けると、にっこり笑って、「そういう言葉を期待して来たんです。」ということで、一件落着になりました。

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木戸友幸
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