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65)世界の製薬市場としての日本

 当連載第24回で「グローパル化する日本の製薬業界」という話題を提供しました。あの記事を書いてから3年余が経ちましたが、この流れはますます激しくなっているようです。2017年9月4日号の日経ビジネスによると、世界売り上げ第10位のアストラゼネカ(英)が第25位の第一三共に買収提案を持ちかけていたそうです。記事によると、第一三共はがん細胞にピンポイントで薬効をもたらす「ミサイル療法」の技術に自信を持っており、「山椒は小粒でピリリと辛い」的な会社であることが、アストラゼネカの狙いなのだそうです。

 しかし、この記事を読んでいくと、海外のメガ製薬企業が日本を狙うのは、何も日本の製薬企業の技術を買収で入手するためばかりではないようです。それ以外の一番の理由は、日本市場の巨大さと安定度にあるようです。以前の当連載の私の記事では、日本市場はアメリカに次いで2位でしたが、現在中国が2位に上がり、日本は3位になっています。しかし、新薬に限っての市場としては中国はまだまだそこまでの個人の経済力がないので、依然、日本が世界第二位の市場なのです。その巨大な市場に付け加えて、国民皆保険という安定した新薬購買のインフラが整っています。これに輪をかけて、処方箋薬消費のもっとも多い高齢者の総人口比が世界一なのです。この市場を世界が狙わない訳がありません。

 市場として世界第一位のアメリカの状況はどうでしょうか。無保険者が4千万人以上と先進国の中でも異例国アメリカは、製薬市場としては明らかに不安定なのです。オバマ政権時代にいったん開始された国民皆保険のひな形の「オバマケア」もトランプ政権になってから、廃止の運命を辿りそうです。そのため、日本の市場としての優良度が、ここに来て更に際立ってきているのです。

 さて、この更なるグローパル化の動きに日本勢は手をこまねいて見つめているだけなのでしょうか。私が今、注目しているのは塩野義製薬です。この会社は2016年度の売り上げが国内10位と国内でも準大手的な扱いなのですが、その営業利益たるや1000億円と、上位会社に引けを取らないのです。この秘密は、塩野義が30年かけて、ほぼ独自開発した抗HIV薬、デビケイのロイヤリティー収入による利益が驚くほど増加したことなのです。つまり、この薬剤を必要とする欧米に販路を持つ英ヴィーブ社に販売してもらって、その利益の何割かをロイヤリティーとして受け取るという手法です。

 いろいろな意味で、グローパル経済を生き抜くに際してハンディキャップが多い日本ですが、異文化コミュニケーションを密にして、世界の誰が何処で何を欲しているかを、いち早く察してビジネスをやっていくことが、重要になってきているようです。

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木戸友幸
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