Dr.Kido History Home
E-mail

国際医療協力

ボタンDr. 木戸流「異文化コミュニケーション」ボタン

66)米仏国民のアンビバレンス
 アンビバレンスとは、好きであって嫌い、二律背反などと翻訳されている英語です。(と一般には言われていますが、フランス語でもまったく同じ綴りでambivalenceなのですが)
さて、今回は、米仏のアンビバレンスについて、両国に住んだことのある私の個人的体験に基づき、お話ししてみたいと思います。

 このアンビバレンスという言葉ほど、米仏の国民感情をうまく表現している言葉はないと思います。フランス人は映画好きですが、この20年ほど、シャンゼリゼで封切りされる映画の半分以上はハリウッド映画なのです。映画も商売ですから、フランス人がアメリカ映画が好きだから、上映されているわけです。しかし、そこは、理屈っぽいフランス人ですから、アメリカ映画はフランス語の吹き替えでなければ駄目とか、フランス映画作成のための援助金を出すとかの姑息な手段を労していますが、結局は、フランス人はアメリカ映画が好きなのです。その辺のことをすべて了解した上で、世界で活躍しているフランス人の映画監督もいます。その代表がリュック・ベッソンです。彼は、ハリウッドで映画制作や映画産業のことを学びました。その後、グランブルー、レオン、ニキータなどの世界的なヒットを飛ばしました。自ら監督しなくとも制作に関わったタクシーシリーズはコメディーとして、これまた大ヒットしました。

 フランス人はアメリカ映画に対して、明らかにアンビバレントな感情を持っています。逆にアメリカ人はフランス映画に対して、どう思っているのでしょうか。これは、ほとんど特別な感情を持っていないというのが真実でしょう。普通のアメリカ人で、フランス映画を観たことある人などほぼ皆無です。ニューヨークの特殊な映画館で、フランス映画が多く掛かるところがありますが、統計的な数字になるべきものではありません。やはり映画の分野では、アメリカ人は金持ち喧嘩せずで、アンビバレンスで葛藤するのはフランス人の独り相撲の様です。

 映画も確かに文化なのですが、これよりかなり大きい文化である言語について語らせてください。現代、特にインターネットで世界が繋がってからは、英語が世界中で幅を利かしています。確かに、そういう実利的なことや、ハリウッド映画へのあこがれから、英語を自ら勉強したり、英語を自由に喋る人をうらやましがるフランス人は多くいます。しかし、フランス人は、ヨーロッパ諸国の中で、一番外国語に興味を示さない国民であることも事実です。フランス語は、今でも外交官の共通語で、世界中の教養人の言語でもあります。このため、意識しているかどうかは別にして、フランス人は、明らかに自国語に関しては、フランス中華思想を持っています。ということで、一般のフランス人は英語に対して、アンビバレントな感情を持っていることは明らかです。アメリカ人はフランス語に対して、どう感じているのでしょうか。普通のアメリカ人は世界中で英語が通じると思っています。そういう事情もあり、アメリカ人は外国語の勉強には熱心でないことは事実です。そうは言っても、商売上の理由で、スペイン語や中国語を学ぶアメリカ人はそこそこいます。それが、フランス語となると、数は圧倒的に少ないのですが、評価がまったく他の言語と異なります。ランクが数段上なのです。やはり、若い国であるアメリカは、ヨーロッパ文化に憧れと、ちょっとした劣等感をもっているのでしょうか。映画俳優でも、キャンディス・バーゲンやジョディ・フォスターは、フランス語に堪能で、フランス映画にフランス語で出演もしています。これらのフランス語の出来る俳優に対する評価は、他の言語の場合より、やはりランクが上のように感じます。2014年にオバマ大統領がオランド大統領をホワイトハウスに招いた時も、オバマは挨拶の冒頭部だけでも、一生懸命フランス語で喋っていました。これは、逆の場合では、目立ちたがりのサルコジくらいしか、英語で挨拶することはないでしょう。ですから、アメリカ人のフランス語に対する感情はアンビパレンスというより、一方的な憧れの感情なのだと思います。
 第二次大戦後、一度だけ、アメリカ人がフランス人に対して明らかな敵意を示したことがあります。イラク戦争にフランスが反対を表明したときに、アメリカ議会がフレンチフライの表記を禁止して、フリーダムフライとすることにしたのです。まるで、漫画のような事件ですが、事実イラク戦争の根拠がくずれてしまった頃に、この決議を議会に提案した議員がフランスに対し謝罪しているのです。

 これまで書いてきて、アンビバレンスと銘打ったものの、アンビバレントな感情で相手を見ているのは、フランス人であり、アメリカ人はそうでもないようです。理屈ぽくて、国の経済も苦しいフランス人と、大雑把で、国の経済もうまく回っているアメリカ人の国民性もあるのでしょう。
 ところで、こういうことを以前から考えていた私自身は、アメリカ人に対しては、自分がフランス語が出来ることをアピールし、フランス人に対しては、英語が出来ることをアピールし、どちらの国でも、かなり得をしています。

| BACK |

Top


木戸友幸
mail:kidot@momo.so-net.ne.jp