Dr.Kido History Home
E-mail

国際医療協力

ボタン 特別寄稿 「国際都市」オーサカの夜 ボタン

 JECCSニュースレター 2012年 4月
JECCS参与 木戸友幸


 筆者は数年前から、ヨーロッパの某航空会社の顧問医を務めている。乗務員が大阪滞在時に体調を崩した時に、診療するのが私の役目である。

 先日、夜の11時に携帯で連絡を受けた。32歳の男性乗務員が、夕食中に意識消失発作を起こしたという彼の同僚からの連絡であった。意識は回復しており、現在は問題ないが、てんかんの既往もなく、原因がはっきりしないので不安だと言う。時間が時間だし、こちらも飲酒していることもあり、救急車を呼び救急病院を当たってもらうことにした。

 救急隊員に携帯で、事のあらましを説明し、救急性の有無だけをチェックして欲しいと依頼すると、気持ちよく引き受けてくれた。それから1時間たっても返事がないので、こちらから連絡すると、大阪市内の救急病院を3つ当たったが、すべて日本語をしゃべれない人は受けいれできないと、門前払いされたそうだ。状態は安定しているとのことなので、仕方なく滞在ホテルまで救急車で送り帰してもらった。

 患者の乗務員もその同僚も、英語は母国語ではないが、職業柄流暢にしゃべる。救急室で診療に当たる若手医師は、医学部の難解な英語の入試問題を突破してきた人間である。英語ならそこそこの対応は出来るはずである。翌日、滞在ホテルに往診し、問題のないことを確かめ、患者は無事帰国したが、もし何か問題が起こっていれば、患者の務める航空会社は世界中の誰でもが知る会社でもあり、大きく報道されていたに違いない。「国際都市オーサカの夜は外国人にとっては無医村」といった見出しが踊るのが目に浮かぶ。

 筆者のアメリカやフランスでの診療体験からしても、欧米の普通の先進国で、その国の言葉をしゃべれないからといって門前払いする救急病院は存在しない。知事と市長が同時に新しく選ばれた大阪の目指す目標の一つに国際化があるようだ。都市の国際化に不可欠のインフラの一つが医療である。日本の先端医療を金持ち外国人に利用してもらって利益を得る、いわゆる医療ツーリズムのみが現在語られているが、今の大阪の外国人医療の状況は、上に述べたように、その前段階で足踏みしているようである。

 なぜ門前払いなのかを考えてみた。日本語をしゃべれない外国人を受け入れれば、診察時間が長引く、問診の不完全さのため誤診する可能性がある、誤診すれば訴訟に及ぶかも知れない等々の理由であると推察する。しかし、コミュニケーション不能というだけで、診療できないというのは理由にならない。意識不明の行き倒れの患者や、乳幼児の診療を思い浮かべるだけで十分である。

 我々日本人は、完璧を目指し過ぎる傾向があるようである。言葉の壁が少しあるために診療を門前払いするより、不完全でも一応は受け入れ、出来るだけのことをするのがまともな医療ではなかろうか。普通の先進国では、このことが普通に行われている。本来の意味での「いい加減」な医療をすることが、大阪の医療を国際化する第一歩であると考える。

| BACK |

 

Top


木戸友幸
mail:kidot@momo.so-net.ne.jp