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心身症シュミレイションモデル
プライマリーケア学会誌 14巻4号(
P534ー535) 1991年より

 
はじめに
 心身症の発症の誘因の一つとして、大きな環境の変化と、それに伴う不安が挙げられる。在日外国人の場合、言語、習慣などの違いから、精神的にはかなり不安定な状態にあると思われる。これに身体的な症状が加わると、その不安は倍増される。
さて、1990年、大阪市国際交流センターの在日外国人向けの英文ガイドブックに、国立大阪病院が推薦病院として掲載されてから、当院への外国人患者の受診が急増し、その大部分を筆者が診察した。その体験より、在日外国人患者の多くが、環境の変化 という明確な原因で心身症をきたしており、それは投薬による対症療法ではあまり改善せず、患者の心理を教慮に入れた適切な対応によって軽快することが観察された。この事実は、心身症発症とその治療過程のシュミレイションモデルとして非常に興味深いので、代表例を提示し、若干の討論を加えたい。

1)対象患者
 1990年1月から1991年5月までに、紹介により当院を受診した30人の外国人患者である (表1)。日本での滞在期間は1カ月から5年の間で、日本で生まれ育った在日外国人は含んでいない。言語的には、英語が母国語であるか、教育によりほぼ母国語なみに流暢に話せる者ばかりであった。
表1 対象患者のプロフィール
在日外国人
年令平均
国   籍
30名(男15名、女15名)
32歳(21〜44歳)
米国(14)、イスラエル(4)、フィリピン、インド(各2)
以下 1名ずつ8カ国:カナダ、韓国、ユーゴスラビア、イラン、オーストラリア、ソ連、ニュージランド、イギリス


2)代表症例
症例1:24歳アメリカ人男性、英語教師
 微熱と全身倦怠感が一週間持続していたが、数日前、手掌のみの黄色変化を同僚に指摘されてより、不安が増強し、強度の不眠に陥った。診察では軽い上気道炎のみであった。手掌の黄色変化はカロチン色素によるものと思われた。これらの説明に患者は納得し、自分は米国で訓練を受けた医師の説明を聴きたかっただけだと言い、上気道炎に対する投薬は拒否した。その後、全身倦怠感と不眠は改善した。

症例2:27歳フィリピン人女性、大学院生
 腰痛がほぼ1年間続いており、そのため気持ちが鬱々として、勉強もはかどらない。患者が通学中の大学の医学部医師のもとに通院しているが、鎮痛剤の処方を受けてい るのみで、症状に改善なく、不安はつのる一方だという。その医師から、病状についての詳しい説明は受けていない。当院初診時に診察上の異常はなかったが、椎間板ヘルニアの除外診断のために整形外科の対診を仰いだ。結果は単なる腰痛症で、その旨を説明し、腰痛体操やストレス回避の手段を教授したところ、納得が得られ、その後 、腰痛は徐々に改善した。

症例3:37歳アメリカ人女性、英語教師
 1カ月間持続する右膝痛があったため、他院を受診し、最終的にMRIにより、骨腫瘍と診断された。当院を受診し、放射線科医の診断により、これは単なる嚢腫であることが判明した。しかし、このことをきっかけにして、背部および頚部にも激痛が出現するようになった。診察および血液検査上は筋肉痛以外の所見を見いだせなかった。患者の感情は次第に高ぶるようになり、診察時にも発作的に泣き出すようなことがあった。患者の米国での主治医にも連絡をとり、最終的には米国に一時帰国し、診察およ び運動療法を受けた。患者はその後、再来日し、症状の再発はみていない。

3)考察
 症例1は心身症的訴えとしては軽度なもの、症例2は中等度なもの、症例3は高度なも のの代表として挙げた。症例1のような軽度の心身症的訴えは、来院した在日外国人患者のすべてにみられた。この根底には、日本と欧米との診療スタイルの違いへの戸惑いがあるように思われた。これに対しては、現在の症状と診察所見の明確な説明のみで症状は改善した。このことは、あまりにも説明の少ないわが国の診療形態への警鐘としたい。
 中等度のものに対しても、対応は基本的には同様であったが、患者に納得してもらう ための対診や、その後のフォローのための電話による対応などが必要であった。
 症例3は、本国への一時帰国まで必要とした唯一の症例である。本症例においても、帰国に至るまでに、本国での主治医との電話ならびにファクシミリによる情報交換を するなどの、当方としての最大限の努力をしたので、最終的には再来日して、当院との関係を保っている。
 以上のように、在日外国人にみられる心身症は、彼(彼女)らの快適に思う診療スタ イルに近い状況下での誠実な対応によって、大部分が改善することが経験された。これは、とりもなおさず説明と同意((nformed Consent)という概念であり、これを日 常診療に取り入れることにより、わが国の医慮も訪米の水準に達するとともに在日外国人の医慮の質も改善されるのではなかろうか。

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木戸友幸
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