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救急車を巡る騒動

 サウジの保健省高官からの日本側の対応の遅れに対する非難を、医療技術交流で何とか一時的にかわしたものの、これは根本的な解決にはなっていませんでした。サウジ側が要求する医療インフラ、即ち救急車と通信機器の日本からの供給はもはや既成事実となっていましたが、これに関しては例によって、現場と東京とのやり取りで時間ばかりが経っていたのです。これをいかに短期間に達成するかが、当面の課題でした。

 救急車をまとまった数で寄贈することがやっと東京で決定され、その輸送時間を短縮するために外務省が頭を絞って考えた方法は、オーストラリアで車を調達し、そこから直接サウジへ海上輸送するというものでした。外務省の連絡網を駆使して、やり取りは迅速に進み、意外に早く救急車はサウジの港に到着しました。そこまではよかったのです。しかし、救急車が港に到着してから誰もがそれまで気付いていなかった問題が明らかになったのです。

 救急車が右ハンドルだったのです。オーストラリアは旧イギリス連邦の国で、イギリスや日本と同様、車は左側通行で右ハンドルなのです。これを知ったサウジ側は救急車の受け取りを拒否しました。理由は、サウジは右側通行で、高速運転する救急車が右ハンドルでは危険だというわけです。確かに一理ありますが、善意の、それもかなり高価な贈り物を、愛想なしに突き返しますかねえ。

 受け取りを拒否された救急車は港で野ざらし状態で放置されました。この失態を日本のマスコミが見逃すはずがありません。野ざらしの救急車の空中写真を載せた記事が新聞報道されました。リヤドの日本大使館にも、確か久米宏の報道ステーションだったと思いますが、カメラを伴った取材が入りました。我々がいる会議室も、入り口からカメラが一瞬映像を捉えました。報道はもちろん、政府のとった行動の拙速さを非難するという論調でした。

 この時思ったことは、国として日本は余りに人が良すぎるということでした。個人としては人がいいのは長所にもなりますが、国としてはそうとは言えないことのほうが多いようです。外交官の定義に「国益のためには平気で嘘をつける紳士」というがありますが、日本人外交官あるいはそれに準ずる政治家はナイーブ過ぎてこれが出来ないのでしょう。何もサウジアラビア人ほど傲慢になれとは言いませんが、日本側もそう少し鷹揚にしかも太々しくなっていても良かったのではないでしょうか。
例えば、あの救急車など、寄贈するものなのだから、我々医療団が帰ってから届いてもいいではありませんか。遅れて届いた際に「命に関わる車両だから、十分時間をかけて調整しました。」くらいの言い訳が堂々と出来てこそまさに立派な日本国の外交官・政治家だと思います。

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木戸友幸
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