Dr.Kido History Home
E-mail

ブルックリン便り  

ボタン ブルックリン便り(2) ボタン

医海時報 S. 56(1981) 3.11

レジデント教育
 今、私は小児科病棟に配置されている。病棟勤務になると、言葉のハンデイキャップに付け加えて、三日に一度の当直という肉体的な試練がある。その悪戦苦闘ぶり次回に述べることにして、今回は、三年間を通して、ニューヨーク州立大学ダウンステートメデイカルセンターのFamily Practiceのレジデント教育が、具体的にどのようにして行われるかを書いてみたい。
 まず、教育の場であるが、第一回で書いたFamily Practice Centerのあるダウンステートメデイカルセンターと通りをはさんで位置するニューヨーク州立のキングスカウンデイ病院の二病院が主に使われる。
 前者は350床の大学病院で、それなりに設備も整っているが、日本の大学病院でおなじみのように、Primary Careというより、もう少しアカデミックな色彩が濃い。それに比べ後者は1、500床と、全米でも公立病院の中では五指に入る大病院で、general careあるいはprimary careに主眼を置いている。しかし、ニューヨークの公立施設一般の例にもれず、慢性の予算不足で、建物は老朽化し、看護婦を始めとするパラメデイカルの数も少ない。ProfessorとかAssistannt Professorとかのtitleを持つ教育担当者(Attending)は両病院をかけもちで教育に当たっている。
 この二病院の他に、Family Practiceのレジデンシーでは主に内科に配置されたとき、ブルックリン内の関連病院(Affiliated Hospitals)で数カ月のトレーニングを行なう。ちなみに、ダウンステートメデイカルセンターは15の関連病院を持っている。
 ここでのレジデント教育のゴールは具体的にどこに置かれているのかというと、まず第一に、医学一般の広い知識を正確に持つこと。これには注釈が付いていて「他のspecialistから文句をつけられないだけの」とある。またFamily Practiceの特異性として、家族の力動(dynamics)に通じること、医師不足地域での医療を念頭に置くこと、長期にわたって患者の責任を持つこと等が挙げられている。したがって、もう少し具体化すると、医師不足地域で、そこの住民を家族ぐるみでPrimary Careから継続した医療までを受け持ち、なおかつその医療水準がある一定のレベルに達しているような医師を育てることであると言える。
 Primary Careというと、外来で初診患者の行くべきspecialistの振り分けをすることのように受け取られていることがままあるが、アメリカでのFamily Practice Residencyの目標は、今述べたように、単なる振り分けでは決してない。 実際のトレーニングプログラムは表に示したように、一年目は、病棟での一般内科に主眼が置かれる。小児科、外科も入院患者が対象である。これらのトレーニングは、各科の一年目レジデントのトレーニングに合流する形で行われるので、三日に一度の当直、受け持ち患者の数、カンファレンスへの出席など全て、配置されている科のレジデントのそれに準ずる。
 二年目は、産婦人科、精神科病棟が加わり、更に、内科、小児科の救急外来勤務がある。この中の内科救急外来勤務の時は、一日三交代制で、二十四時間ぶっ通しの当直はない代わりに、一カ月の間、まる一日休める日はない。
 二年目の内科は四カ月のうちの半分はelectiveといって、自分のやりたい分野を選ぶことができる。electiveを外の関連病院でとると、当直をしなくてよいという噂がレジデントの間に広がっているが、真偽のほどは定かでない。
  三年目は、耳鼻科、眼科、外傷外科などが、短い期間ながら学べる。四カ月あるFamily Practiceの期間に、何らかのリサーチワークをすることも可能である。
 チーフレジデントのリッチ、ビラーは空手をやっている関係か、日本に非常に興味があるらしく、私が始めて来た日からよくしてくれて、話す機会も多いのだが、あらゆる分野について実によく通じている。また、センター内で行う小外科の技術も鮮やかなものである。誰でもが三年後にすばらしいオールラウンドプレイヤーになるという訳ではないが、ある水準に全てが達するようにという努力は、あらゆる機会にうかがうことが出来る。
なお、このトレーニングプログラムは決して固定したものではなく、各レジデントの要求によって多少の変更は可能である。例えば、将来、小児科中心のプラクテイスをやりたいレジデントは小児科の時間を増やすことが可能だし、私のように、三年後に日本でプライマリケアの指導にあたるという目的を持っており、こちらの病院からサラリーをとっていない者には、デイレクターの個人的なコネを通して、数ヶ月間、ニューヨーク以外のFamily Practice Residencyを持つ病院で学ぶことが可能である。

| BACK |

Top

木戸友幸
mail:kidot@momo.so-net.ne.jp