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ブルックリン便り  

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ちょっと斜めから見た「人種差別 」(1)

 米国の特にニューヨーク、ロサンゼルスなどの大都市では、人種差別的なほのめかしをすることすら、非文明人の証拠であると見なされるので、表面上は人種差による差別はほとんど感じられません。最近では、黒人に対するBlack Americanという言葉でさえ差別的だというので、African Americanという表現が使われるくらいですから。 しかし、あくまでもこれは表面上のことで、心理の奥底に潜む差別感情が無くなった わけではないようです。ひょとしたら、特に東部の紳士然とした白人が持っている有色人種への差別感情の方が、普通のアメリカ人白人のそれより陰湿なところがあるのかも知れません。

僕のブルックリンでの研修医仲間にも、黒人は何人かいました。僕より2年上の研修医のアルは学生時代はフットボールの花形という文武両道の黒人アメリカでした。それも、ブラウン大学というアイビー・リーグの名門校でです。アルは、名門大学で、スポーツの花形であっても、やはり黒人ということで有形、無形の差別を受けるアメ リカ社会を軽べつし反発もしていました。彼はその気持ちを大胆に態度で示す種類の人間でした。
こんなエピソードがあります。婦人科の教授は定年前の蝶ネクタイを付けた白人紳士で、学生や研修医の身だしなみにうるさいので有名でした。僕自身も、一度ネクタイをせずにいるところを、彼に見つかり、「君、何か忘れてきたものはないかね?」と嫌みたっぷりに言われてことがあります。
さて、アルはネクタイなどという白人文化が産んだ不自由な装飾品は、付けたことがない男でした。もちろん、婦人科のローテイションは彼にもあり、その教授にも何度かは顔を合わしたことはあります。アルは、「何か忘れてきたもの・・・」と言われたときどうしたかって?彼は、「忘れ物ねえ・・・。」と言いつつ、ノーネクタイの胸のボタンをもう一つ外して、胸毛を露にして、教授に向かって胸を突きだしたそうです。

実際、被差別者からこのようにされると、インテリは弱いものです。目をそらしてこそこそ退却するしかありません。マイノリティーの若者のこういう態度は、その後世界の各地で見ることがありましたが、文明国では、権利は主張して当然ということがマイノリティーの人々にも浸透している証拠なのでしょう。国の外では、オドオドして権利の主張などとはほど遠い日本人は、ある程度は見習ってもいい態度かも知れません。

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木戸友幸
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