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ブルックリン便り  

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ドラッグ・アラカルト

 ここでいうドラッグは、治療薬のことではありません。いわゆる「ヤク」のことです。
アメリカでは、マリファナ、コカイン、アンフェタミンのようなドラッグを総称して、 recreational drugs(娯楽のための薬)ということがあります。さすがにヘロインはその範疇には入らないようですが、この呼称は日本人の感覚からすると「ちょっと、ふざけるんじゃないよ!」という感じですね。

僕がブルックリンでレジデントをしていた80年代前半は、これらのrecriational drugsが巷に氾濫していた時代でした。マリファナなどは、街角で普通に売り買いされていましたし、病院の真ん前で、医師から処方されたばかりの睡眠剤が薬価の数倍の値段で取引されていました。

レジデントたちも例外ではなく、かなりの者が少なくともマリファナまでは使用していたようです。その証拠に、病院の備品の中で一番よく盗難にあうのが、止血鉗子なのです。これは、レジデントが家に持ち帰ってroach clipにするのです。roach clip というのは、マリファナ煙草が短くなったときに、それを指で挟んでいると熱いので、指の代わりに挟む用具のことです。roachはcockroach(ゴキブリ)の略で、短くなっ たマリファナ煙草をゴキブリに見立て、それを挟むクリップだから、こう言うのです。

レジデントはお金もないので、ときどきマリファナを回し吹かしする程度ですが、指導医連中でコカインをやっているものもいたようです。(あくまで噂ですが)その頃の指導医たちは、ベトナム戦争で軍医としての兵役を務めた医師も多く、ドラッグに関してはかなり寛大なようでした。(あまりいいこととも思えませんが)

最後に、外科をローテイトしたときに顔見知りになったレジデントの悲しい話を紹介します。彼は赤毛の白人で、アメリカ人にしては非常に背が低く(160センチくらい) 、よくしゃべり、病棟中を駆け回る疲れを知らないレジデントでした。肉体的なハンディをその活動量で補っているかのような印象を受けました。その彼が、ある朝、外科病棟のトイレの中で、冷たくなって発見されたのです。 いろいろ調査がされた結果、彼はコカインの常習者で、死因は恐らくはその過剰摂取によるものという結論が出ました。日本でも、ときどき医療職の薬物依存の報道がありますが、そういう報道を見るたび に、このブルックリンの外科レジデントの寂しい最後を思い出します。

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木戸友幸
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