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カーネギー・ホールの思い出

 日本でも有名なカーネギー・ホールはマンハッタンのど真ん中にあるのですが、有名 な割には、少々古びた背の低い建物で、住所だけを頼りに訪ねると通り過ごしてしまうかも知れません。

マンハッタンに暮らすようになったある日、ニューヨーク・タイムズの文化欄に小沢 征爾の記事が載りました。彼が当時音楽監督を務めていた「ボストン・シンフォニー・ オーケストラ」のニューヨーク公演の絶賛記事でした。その記事に触発されて、年に3回あるニューヨーク公演の年間チケットの82年度分を予約購入したのです。このニューヨーク公演の会場がカーネギー・ホールだったのです。

「オーケストラ」と呼ばれる側面のパルコニー席を年間予約しました。金額は一回につき5千円くらいで高くはなかったように記憶しています。初回に行った時は、確か夏でしたが、幕開けまでは皆楽しそうにおしゃべりをしているのですが、小沢が登場すると万雷の拍手が起き、タクトを上げる直前に完全な沈黙の一瞬があります。それから後は、カリスマ小沢征爾の独壇場の世界です。僕はいっぺんに彼のファンになってしまい、5番街の紀伊国屋で彼の自伝を購入して読んだのを覚えています。

二回目は冬の寒い時だったのです。前日からニューヨークは雪になり、10センチくら いは積もったでしょうか。そのお陰で市内の交通は大混乱です。僕は地下鉄を乗り継いで、開演時間前にホールにたどり着いたのですが、開演時間になってもホールは半分くらいしか詰まっていませんでした。そこで開演を30分遅らせることになりました。 結局それでも7割くらいの入りでした。

曲目はブラームスの交響曲第2番でした。この大雪の中で、コンサートに出かけてくる人はやはりよほどの音楽好きなのでしょう。 いつものように、心地よい緊張感の中で小沢の指揮のもと演奏が始まりました。このブラームスの2番は、第二楽章に非常に美しい旋律があり、この旋律が何回も繰り返されます。僕の予約席であるオーケストラ席からは、下の席の様子も手に取るように分かります。前から数列目のど真ん中にかなり高齢の女性がいましたが、彼女、この主旋律が繰り返されるたびに、さも気持ち良さそうに、上半身を揺らしながらリズムを取るのです。この動作がかなり目立つので、周囲の人はそれを見ながら、微笑んでいました。
大雪の後の混乱にもかかわらず、心地よい雰囲気のコンサートでした。

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木戸友幸
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