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好漢ペドロ

 1年目の州立大学病院のローテイションの時のことです。
我々1年目の指導役の2年目レジデントは、キューバ人のペドロという非常に快活な男でした。彼は、典型的なラテン系のマッチョで、背も低く、別に男前でもないのに、女性には非常にもてました。彼と一緒に病院内を歩くと、詰め所毎にナースから「ハ 〜イ、ペドロ!」という黄色い声が飛びます。何しろ、中年の婦長さんまで、ペドロ のファンなのです。声をかけるだけでなく、抱きついてくるんですから。ペドロの力量恐るべし!彼は普段からナース連中にはこまめに世話をやいていたに違いありません。

ペドロは、ナースだけでなく、後輩レジデントの面倒見もよく、特に自分に付いた下級レジデントは何が何でも自分が守るという男でした。これぞマッチョです。
例えば、救急室からルール違反の入院が、我々のチームの病棟に送られてきたりすると、それこそ必死の形相でそれに抗議してくれます。また、指導医から我々一年目レジデントへの叱責があったりすると、さり気なく我々をかばうようなニュアンスでの取りなしをしてくれるのです。

2年目レジデントは、肉体的にはさほど忙しくないのですが、下級レジデントの監督義務が出来てくるので、一般的には1年目よりピリピリしています。でも、ペドロにはその常識は当てはまりません。当直で入院が少ない暇な夜など、すぐ病棟から消えてしまうのです。たいていは、州立大学の学生用の室内プールに泳ぎに行っているんです。そのことで尋ねてみたら、「俺は、当直のときは必ず水泳パンツを持ってきているよ。」と平然と答えました。

ペドロは3年間の内科レジデントが終了して後、循環器のフェロー(専門医の研修コース)になりました。ある時、心電図室に用事があって、訪ねると、彼が心電図を読んでいました。その日、僕はVネックのセーターにネクタイをして、白衣は着ずにいたのです。すると、ペドロは「ヘイ、トム、お前がそんな格好してると、白人のドクターに見えるぜ。」とニヤニヤしながらも、懐かしそうに握手を求めてきました。

キューバ生まれのマッチョ・ペドロは本当にいい奴でした。

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木戸友幸
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