Dr.Kido History Home
E-mail

ブルックリン便り  

ボタン ブルックリン便り(4) ボタン

 

一般外科をローテイト
 タカ派レーガンの地滑り的勝利、夜毎ダウンタウンマンハッタンに出没する暴行魔、ナースのワイルドキャットストライキ、ジョンレノンの惨殺、、、。大小さまざまな事件が、ここNYを騒がせているが、レジデントの生活はそういうこととは関係なく、三日の一度の当直に、まさしく追いかけられながら、慢性睡眠不足と共に進んでいく。
  十月、十一月は一般外科をローテイトした。患者数は40ー50人程度で、対象は外傷以外の腹部外科、下肢の血管外科、それにabscess、痔、ヘルニア、下肢の閉塞性動脈疾患および静脈炎、膵炎などである。最後の膵炎であるが、これは、たいてい内科的治療だけで退院するのだが、なんでも以前、ここの外科で大がかりなclinical studyをやったことがあり、それ以来、腹痛+高アミラーゼは全て外科に入院するようになったそうだ。 レジデントの陣容は、一年目二人、二年目一人、三年目二人、それに五年目のチーフレジデントが一人である。患者数に比べ医者の数が多いように感じられるかも知れないが、手術が月ー金まで毎日あり、半分以上の医者が病棟から消えるので、これでも病棟はてんてこ舞である。
 そういう訳で、外科はローテイトしている医学生も貴重な戦力になる。特に週二回ある外科外来は戦場のような忙しさなので、医学生も一人前のドクターの顔をして患者を診ている。オペ、病棟、外来と三本建ての忙しさの上に、三日に一度の当直には必ず数人の入院があり、運悪くすると(運良くか?)そのうちの幾人かは緊急手術を要する。こういうレジデント生活を一般外科の場合、五年続けないと専門医の資格を取れない。したがって、外科のチーフレジデントはきわだって優秀であるし、尊敬もされている。ちなみに、私が回っていたときのチーフレジデントはインド人の女性であった。しかし、人間、五年間ずっと緊張を続けるというのは無理な話であって、この緊張のはけ口を作るためか、外科のレジデントは例外なく話好きで、冗談ばかり言い合っている。一度、男の患者のhemorrhoidectomyの最中に、三年目レジデントが手術中の二年目レジデントに、「もう少しきれいに切っとかないと、手術後anal sexが出来なくなったら困るだろう。」と言ったとたん、しまったという顔になり口をつぐんでしまった。その患者はspinal anesthesiaだったのである。 こんな調子で外科では忙しい中でもリラックスした雰囲気があり、非常に働き良かった。外科は一つのチームとして仕事をやっていくので、内科や小児科のように主治医制度をとっていない。主治医制にすると、自分の患者以外に対して無責任になるという理屈である。したがって50人近くの患者を大まかにではあるが、全てのレジデントが把握していることを要求される。 二カ月間で、皮膚縫合とか、abscessの切開とか、いろいろな技術的なことを学んだことも役に立ったが、この多くの患者を要点を押さえて把握するという訓練も、非常に役立つことだと思う。これは、私自身が日本で卒後の三年間を大学病院の内科で過ごし、少ない患者を細かく深く診るという訓練を受けたので、よけいにそう感じるのかも知れない。

国際色豊か
 小児科ではあまり感じなかったことだが、外科の患者は国際色が豊かである。こう書くと聞こえは良いが、要するに英語がしゃべれない患者が多いのである。これはニューヨーク全体の一般的現象の反映である。外来で、スペイン語しかしゃべれない患者を診ていて、どうしてももう少し詳しいHistoryをとりたい時は患者に頼んで、待合い室でbilinngualを見つけてきてもらう。たいてい五分以内に見つかるようである。
 一度、病棟の四人部屋で、英語、スペイン語ープエルトリコ人、フランス語ーハイチ出身の者はフランス語らしき言語を使う、ロシア語ーソ連から移住したユダヤ人の、それぞれ違う言語をしゃべる患者が集まったことがある。そこで患者を診ている医者が日本人である。まるで国連みたいだなとつぶやくと、英語の分かった者だけが、ワッハッハと笑った。

| BACK |

Top

木戸友幸
mail:kidot@momo.so-net.ne.jp