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CCUへの訪問者

 2年目レジデントの時に、心臓の集中治療室(CCU)への1ヶ月のローテーションがありました。集中治療というと、さぞ忙しい部門だと思われるでしょうが、これが何と、非常に閑だったのです。閑なのですが、その場にいないといけないのです。ですから、そこにいることが仕事なのです。昼もカフェテラスに行かずに、部屋に食事が届くのです。

ここでは、7つのベッドに7人のナースが3交代で張り付いています。CCUナースは特殊なトレーニングを受けているので、彼女らが心電図モニターを監視してくれている限 り安心で、レジデントは特に何もすることがないのです。昼間から、テレビドラマを 観ていることもありました。もっとも、昼間のドラマは再放送がほとんどです。久しぶりに、「アイ・ラヴ・ルーシー」を観て、50年代のノスタルジアにひたっていまし た。

さて、この極楽郷にちょっとした事件が起きました。1週間後に、ドイツのさる大学医学部から、循環器が専門の教授が見学に訪れるので、現在ローテート中のレジデントはその訪問の準備をしておくようにという知らせが届いたのです。一緒にローテー トしているユダヤ系のレジデントのブルースと「準備って、一体何を準備すればいいんだ。」とぼやきあっていました。ニューヨークはユダヤ系の人口が多いので、もともとドイツ人は人気がないのです。ブルースも、例外ではなく、「きっと、まじめく さった教授だぜ。ナチ式の敬礼でもしてやるか。」などと毒ついています。

さて、その日が来ました。実際には、ブルースと僕とが、受け持ち患者を交代で紹介しただけで、特に変わったことはしませんでした。そのドイツ人教授は若手のハンサムな男で、英語も上手でユーモアのセンスもあり、アメリカ人の教授と全く変わるところはありませんでした。 彼が去ってから、ブルースと僕は、顔を見合わせて苦笑いしてしまいました。

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木戸友幸
mail:kidot@momo.so-net.ne.jp