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Private Hospital
 1981年1月から6カ月間の予定で内科を回っている。内科はFamily Practiceの一年目のプログラムの中で一番長く、それだけに重要な位置を占めている。6カ月を2カ月ずつに分けて、大学病院、キングスカウンテイ病院、ブルックリンVA病院のそれぞれで研修するわけである。
レジデント教育の方法は、これまで回った小児科、外科などと基本的には違わないので、繰り返さない。
 ただ内科は、他の科に比べ、より要求される水準が高く、アテンデイング回診の時の質問は、非常に細かいことにまで及ぶ。例えば、喘息で入院した患者の貧血があったとする。その患者がたとえ深夜に入院していたとしても、もし抹消血のスメアーを自分でのぞいていなかったら何らかの注意を受けることは覚悟しなければならない。
 一、二月は大学病院でのトレーニングであったが、この大学病院はニューヨーク州立なのだが、病院の機能的な分類からするとPrivate Hospitalである。これは、日本でも`オープンシステム病院`という名で、近年、注目を集めるようになってきているが、アメリカでのprivate practiceを支えるひとつの重要な制度だと思われるので、この説明に少し紙面を割いてみたい。
 ここでいうprivateは、入院患者がある特定の医師のprivate patientであるという意味である。すなわち、この病院と契約を結んでいる医師が自分の患者を入院させ、病院の施設とスタッフ(我々レジデント)を使って治療し、その治療費の大半を自分の懐に入れるわけである。
 大学病院であるから、private doctorは professor とかassociate professorとかの大学内のドクターが圧倒的に多いのだが、街で開業しているドクターもときどきみかける。このprivate hospitalがどのように機能するかを、もう少し具体的に説明してみよう。

持ちつ持たれつ
  各private docorは、自分がクリニックで診ている患者が入院を必要したら、入院係りに連絡して入院リストに登録しておく。空きベットができると入院係りから患者に連絡が入り入院の運びになる。病棟のその日の当直のレジデントが入院患者のwork-up をし、同時に、private doctorにも連絡して、患者の外来での経過や特別な指示などを仰ぐ。 患者が夕方までに入院したときは、たいていアテンデイングもその日にうちに病院にやってきて我々とそのcaseについてデイスカッションをし、chart にAdmission Noteを書いていく。なかには患者と一緒に病院に来て点滴までしていってくれる奇特なドクターもいるが、これは非常にまれな例である。あくまでも肉体的労働は我々レジデントの仕事で、アテンデイングは知的労働のみを受け持つ。そして、その報酬は桁違いである。この辺りのところにレジデントは、割り切れない感情を持っているようで、事ある毎に不満をぶちまける。
 おおかたのアテンデイングはその負い目があるせいか、病院で自分の患者の受け持ちのレジデントに顔を合わすと、20ー30分の時間をさいて、そのcaseに関連したちょっとしたレクチャーをしてくれる。まれに、あまり顔を出さず指示ばかりを出すアテンデイングがあるが、そんな時はレジデント同士でそのアテンデイングをこきおろして欲求不満を解消する。
 肉体労働の中でも各種の穿刺検査などのinvasiveなものはmedico-legalなことも絡んでいるのか、アテンデイングがすることが多いようである。 以上のようにHouse Staff=レジデントをかかえたprivate hospitalは、House Staffにとってはトレーニングの場として(多少の不満はあるにせよ)、private doctorにとっては自らのpracticeの場として貴重な存在であるといえる。 アメリカでのprivate hospitalは、全国的に統一されているレジデント教育制度と切り離して考えることはできないものである。したがって、そのレジデント教育制度が確立していない我が国で、その「オープンシステム」制度だけを導入しようとしてもスムーズに機能することは、なかなか難しいように思われる。

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木戸友幸
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