Dr.Kido History Home
E-mail

ブルックリン便り  

ボタン ブルックリンこぼれ話(42) ボタン

Balduci

 最近、幸田真音の書いたニューヨークが舞台の経済小説を読んでいたら、主人公がBalduciで買い物をする場面が出てきて懐かしさがこみあげてきました。
Balduciというのは、マンハッタン南部にある高級食材店の名前です。東京だと、さしずめ紀伊国屋か明治屋、関西だとイカリスーパーと言ったところでしょうか。肉、魚、野菜、果物などの生ものから、チーズ、ワインまで何でも揃いますが、質がいい高級なものしか置いていないのです。僕が買うのは、果物、チーズ、ワインと、料理が出来ないので、調理の必要のないものばかりでした。

 あるとき、サンフランシスコから、留学仲間のFくんが遊びに来ました。近所の見物がてら彼をBalduciへ案内すると、彼は目を輝かせて、店中を覗いて回りました。彼は、活きのいい魚を買って帰って、僕のアパートでそれを刺し身にしてくれたのです。
この料理の上手なFくんは、今、京大医学部の大学院の教授をしています。

この時から、僕が料理に関しては能力ゼロということはFくんにはよく知られていたのですが、そのずっと後に、Fくんと共同の仕事で、パリの病院に単身赴任することになりました。もちろん、パリ時代も料理はほとんど出来なかったのです。でもせめてステーキくらいは焼けるようになろうと思い、新しいフライパンをパリで買ったのです。

そのフライパンが良かったのか、始めてうまくステーキが焼けて、そのことがあまり嬉しかったので、パリから神戸の妻に電話したのです。そのエピソードをよせばいいのにFくんにも後日話しました。その時から、その手の話題が出る度に、Fくんは僕のことを、「ステーキがうまく焼けただけで、奥さんに国際電話するおぼっちゃん」と吹聴しています。

| BACK |

Top

木戸友幸
mail:kidot@momo.so-net.ne.jp