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OB.GYN
 産婦人科をまともに英語で言うとやたらに長ったらしいので略してOB. GYNと書き、オービージーワイエヌと発音する。このOB.GYNに、我々ファミリープラクテイスレジデントは、二年目におのおの一カ月ずつローテイトする。将来、開業した時、産科もやりたい者は三年目にもう三カ月、余分にOBをとる。しかし、産科を兼ねるとマルプラクテイスのための保険金が目玉の飛び出るほど高くなるので、少なくとも東部では産科をやっているファミリープラクテイショナーは非常に少ない。さて、私の最初の月は婦人科であった。我々の科にとって必要なのは office gynecology であるので、日中は一般婦人科外来と、ファミリープラニングと呼ばれる避妊外来を受け持つ。婦人科外来の要は何といっても内診である。こちらの医者は、内科医でも問題のある女性患者には内診するように教育されているので、一年目のときは私も見様見真似でやっていたが、なにしろそんなに数があるわけではないので、あまり自信はなかった。
  しかし、ここに来て日に少なくとも五例は内診をして、その全てをアテンデイングにもう一度チエックしてもらうというやり方で学ぶと、一週間で、子宮がちゃんと前屈しているかどうか、付属器に腫瘤が触れるかどうかくらいは、ある程度自信を持って言えるようになる。これは大きな収穫であった。これはどんな診察手技についても言えると思うが、手技に自信が出来ると、どんな患者にも(もちろん必要な場合だが)ためらわずにそれを迅速に行うことが出来る。症例が増えれば、またそれだけ技術も上達する。婦人科のローテイションの後、ファミリープラクテイス外来での内診を億劫がらなくなったのはもちろんのことである。
避妊外来での主な仕事は、出産四週間後の患者に避妊法を教育し、実際それらを処方することである。方法は経口避妊薬、ダイアフラグム、IUD(Intra Uterine Device)の三つある。それら、おのおのの長所短所を説明して、患者にその中の一つを選ばせるわけである。そしてその選択がピルの場合は処方箋を、ダイアフラグムならサイズの決定と、装填の練習、IUDならその種類を選び挿入しなければならない。これらの事柄は短期間の訓練で出来ることで、何も専門の婦人科医の手をわずらわす必要のないものである。日本の内科の開業医の先生方にもお勧めしたい。患者層も増すだろうし、なにより女性患者への理解度が格段に増すはずである。
 以上が日中のスケジュールのあらましであるが、婦人科では夜は三日に一度の割合で病棟の当直をしなければいけない。主な仕事は救急入院の初期医療である。多い疾患は自然流産と付属器炎。この二つで八割いくのではなかろうか。それに、たまに子宮外妊娠がある。D/Cと呼ばれる掻爬は、ここでいちばん頻繁に行われる処置であるが、あのガリガリという手に伝わる感触が未だに私の右手に記憶として残っている。気持の良くない処置の一つである。
婦人科が外来と病棟の二本建てであるのに対して、産科は一カ月をずっと病棟で過ごす。キングスカウテイ病院とダウンステイトメデイカルセンターを合わせると、年間一万例近くのお産があるというから、一カ月といっても結構経験が積める。私の場合三十人位、自分一人で分娩させた。年令の幅も広く、下は十七歳から上は四十六歳まであった。産科は午前七時から午後七時までのデイシフトと、その逆のナイトシフトという十二時間シフト制をとっている。同一シフトは少なくとも一週間続けてとらなければならない。我々ファミリープラクテイスからのローテイターは、一カ月のうち一週間はナイトシフトをとることが義務付けられている。もちろん肉体的にはナイトシフトのほうがきつい。十二時間勤務というけれど、午前七時を過ぎてから、分娩後の患者の回診をしなければならないので、実際は十三時間労働である。産科も婦人科と同じく、我々は主に正常分娩を扱い、帝王切開等にはタッチしない。この産科のローテーションを終えると、ファミリープラクテイスの自分の外来で妊娠患者を持って、その産前管理、分娩、そして産後の母親と赤ちゃんとを両方診ていくわけである。これこそファミリープラクテイスの醍醐味といえるだろう。

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木戸友幸
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