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L'ETE 1975  

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20)ナディアの淡い恋心

 地中海で一緒に泳いだ仲のルーマニア人のナディアとは、それからも時々学食などで会うことがあり、挨拶は交わしていました。会う度に彼女は、「あの小旅行は楽しかったね。」と恥ずかしそうな仕草で言うんですが、私自身、それほどあの旅行に思い入れがあるわけではないので、「そうだね。」と言うしかありません。

 ナディアのことをある時、エンリケに話してみました。彼は即座に答えてくれました。「トモユキはナディアに惚れられたんだよ。」何となくそんな感じはしていましが、その道のプロのエンリケから断言されると、それは間違いない事実になったのです。

 でも、こちらにそういう気持ちがないものだから、こればっかりはどうしようもありません。ある日、寮の部屋に帰ると郵便受けにナディアからの手紙が入っていました。手紙といってもフランス語で数行の書き置きのようなものでした。「グルノーブルでの過程は終了し、引き続きパリでの研修があるので、お別れです。いい思い出をありがとう。」といったことが書いてありました。

 このように状況を客観的に描写すると、何だかフランスの恋愛映画の一場面のようですが、恋愛経験が乏しい当時の私にとっては、多少の胸キュン体験にはなりましたが、恋の実感はまったくなかったです。
本命のマリアには相手にされないのに、こちらが何も努力をしなかったナディアからは惚れられる。二十歳を超えてやっと恋は理不尽なものだというが実感できた私でした。

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木戸友幸
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