Dr.Kido History Home
E-mail

L'ETE 1975  

ボタン L'ETE 1975(22) ボタン

22)もう一つの1975年

 つい最近(2010年8月)「サイゴンのいちばん長い日」という文庫本(文春文庫)を読む機会がありました。この本の著者は当時サンケイ新聞サイゴン特派員の近藤紘一氏で、サイゴン陥落の日の前後の状況を日記風に書いています。その陥落の日が1975年4月30日なのです。
サイゴン陥落が70年代であったことは覚えていたのですが、それが私がグルノーブルを訪れた同年の75年であったというのはとっくに忘れており、この本を読んで思い出した次第です。

  後年、ブロードウェイで当たりを取った「ミス・サイゴン」というミュージカルの舞台装置で、シンボリックな役割を果たした米軍の輸送ヘリコプターがあります。近藤氏はこのヘリでのサイゴン脱出を結局果たせず、陥落下のサイゴンに数週間取り残されるのです。サイゴン陥落の前後を現地から取材して書かれた書物は近藤氏のものしかないようで、この本は、当時大宅壮一ノンフィクション大賞の最終選考まで残ったのですが、残念ながら落選していまいます。しかし、ハラハラドキドキの連続で、同時に、陥落直後の案外落ち着いた状況も意外で、私もこれは彼にしか書けない秀作だと思いました。当時の選考委員の一人である開高健(彼もベトナム戦争のエキスパート)はこの作品を絶賛したそうです。

  この事実からも分かるように、60〜70年代に世界を揺るがしたベトナム戦争がこの75年にあっけない形で終結を見たのです。私は期せずして、同年の夏にフランスで夏期講習を受けたわけです。平和なグルノーブルの大学構内の夏の日々を思い出すにつけ、「サイゴンのいちばん長い日」の読後にかなり感傷的な気分になりました。

| BACK |

Top

木戸友幸
mail:kidot@momo.so-net.ne.jp